徒然の都

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ファイアーエムブレム聖戦の系譜・二次創作小説『呪縛』Part1

『呪縛』
 
それは、ひたひたと押し寄せる闇の気配その物だった。
穏やかな初夏の陽光の下で、きらきらと眩く輝く光すらも
その闇を阻む事は出来ぬという具合である。
ミレトス城、ロプトウスを信奉する邪悪な
暗黒教団が子供狩りを行う際の拠点であり、そこには
暗黒教の幹部達の司令部も設けられていた。
今も、この城にはクロノス城から
移送された子供達が大勢収容され、そしてその泣き叫ぶ声が
外にまで聞こえて来ると言う異様な様である。
黒神は、幼い子供を生贄に欲し、中でも優秀な能力を持つ者は
友人や兄弟同士で憎しみ合い殺し合いをさせ、
生き残った者は選ばれし奴隷民として生き延びさせる。
そんな地獄絵図のような光景がまかり通っていた。

ここに、美しくも残虐な微笑みを浮かべる一つの人影があった。
暗黒教団の司祭達が、神と呼ぶ一人の少年。
名をユリウスと言う。
ミレトス城のテラスに一人の少女を伴って視察に現われたる彼は
真っ直ぐでありながらもまるで地獄の業火を思わせる長い真紅の髪の毛を
揺らし堂々と眼下の己の領土を見渡していた。
涼やかな眉根、きりりと引き締まった唇、しっかりと前を見据え
人を使う事に慣れた上の位に立つ者の威厳を窺わせる鋭い瞳。
麗しさの中にも、気品があり闇の皇子に相応しい貫禄なのだ。
そして彼が連れている横の少女は、一目見ただけで只者では無い雰囲気を
纏わせていた。
横に深いスリットの入った艶やかな漆黒のドレスに身を包み、
フリージ家の血縁である事を表わす素晴らしい輝きの銀の髪を高く
結い上げた少女は己の主君であるユリウスの側に
自然な様子で控えている。
深いアメジストを思わせる紫の瞳を覆う睫(まつげ)は
朝の光を纏って美しい川面の煌きをも思わせる。
その瞼が微かに、持ち上がり控えめな様子でユリウスを見上げれば
そこには明らかな恋慕の情が見て取れるだろうか。
 
「セリスの軍がこのミレトスに、進軍して来る。イシュタル。
視察は済んだ。
ここは暗黒司祭共に任せてバーハラへ帰ろう。」
「はい、ユリウス様。」
 
イシュタルと呼ばれた少女は深く頷き、主君の命令を聞く。
ユリウスは満足そうにその様を眺めていたが、
ふと何か面白い事を思いついた……と言う風に唇の端を流麗に釣り上げると
その口から残酷とも無邪気とも取れる言葉が飛び出すのだ。
 
「そうだ、ついでにお前と2人で遊びたいな。
今から反逆者を一人血祭りに上げるぞ。
どちらか早く仕留められるか競争だ。いいな?」
 
その言葉と共に、ユリウスはイシュタルの真近くまで歩いて近づき
顎に軽く手を添えるようにして上向きにさせると
耳元に唇を寄せるようにして顔を近づけさせる。
それだけで、イシュタルはぎゅうっと目を瞑って
感極まってしまいユリウスのその唇から出る吐息を耳に感じながら
静かに、だが誰にも曲げる事が出来ない
絶対の忠誠溢れる決意の言葉でもって返事を返すのである。
 
「分かりました、では早速……。」
 
Part2へ続く