徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

聖戦の系譜二次創作小説 ・「さよならの後に」Part2.

与えられた部屋に戻り普段着に着替えると、途端に部屋の
寒さが身に染みた。
肌に突き刺さるような冷えた空気は、幼少期からシレジアで
住んでいたが故にもう慣れた物だと思っていたが
別の意味で堪えるようだ……どうやら心が寒いらしい。
それでも、フュリーはクロードの言葉を反芻し、

一生懸命どう答えようかと
考え込んで居た。
ベッドに一人腰かけて、考えるのはクロード神父の人柄の事。
神父様は、常に実直で軽々しく付き合ってほしいと言う人では
無い――と思った。
仲間の中には、挨拶代わりにそんな事を言う人が居るけれど、
クロードはおそらく本気の本気なのだ。
と言う結論に達すると途端にフュリーは耳まで真っ赤になる。
どうしよう、今までそんな事を男性から言われた事もなく――

 

何時の間にか、レヴィン王子への気持ちの整理が付いて、今度は
クロードにどう答えるか、とそればかり考え込んで居る自分に気が付く
フュリーである。


フュリーだって分かっている、レヴィンへの想いはクロードの言う通り
不義なのだ、と。
でもクロード神父は独身だからもし付き合うとすれば
何の問題も無く行くだろう。

 

とその時トントンと軽くドアを叩く音が外から聞こえる。

「フュリー、居ますか?」

それはエーディンの声だ。

「は、はい。居ます。どうぞ」

立ち上がってドアを開けると、そこには
湯気の立つ紅茶と、スコーンを銀色のトレイに置いてそれをしっかり
持っているエーディンの姿だ。

「皆さん、向こうでパーティーの最中です。
でもフュリーの姿が見えないので体調でも優れないのでしょうか、と思って
心配して居ました。これは、差し入れです」

エーディンから、トレイを受け取りそれを部屋のテーブルの上に置く。
紅茶の香ばしい匂いが、暖かく部屋に広がり、フュリーはエーディンの気配りに
感謝するように微笑んだ。

「ありがとう、エーディン様。あの、後で良いので少し相談を
しても良いですか?話したい気分なのです」

「ええ、勿論です。会食が終わったら直ぐに
こちらのお部屋に来ますね?」

「お願いします」


本当は、式の後の会食にも参加すべきだが――とは思う物の
結局は顔を出さず仕舞いになってしまった。
トレイに置かれた紅茶を持ち上げ一口口にし、ほっと息を吐く。
美味しい――、エーディンが入れてくれる紅茶は
何時も美味しいのだ。
程よく温かいそれを時間をかけてゆっくりと飲む。

スコーンの方も、祝いの席用にシレジアの厨房を預かる者が
力を入れて作って居たと聞く。
紅茶を飲んだ後にスコーンを食べると、
口の中で優しい味が広がった。

それから、更に二時間が経ち、パーティーもお開きの頃合い。
エーディンが、修道女の服に着替えてこちらの
部屋へと来てくれた。

「エーディン様。わざわざありがとう、相談と言うのは――」
「はい」

フュリーは、言葉を選びながらレヴィン王子への想いと
クロード神父との会話の一部をエーディンに話すのである。

「そうですか、クロード様が……」

エーディンは椅子に深く腰掛け首を緩く傾げると

「フュリーの今の気持ちはどうなのです?」

「えっと、今は――。嬉しいのですがとても複雑な気持ちですね」

「それなら思い切ってクロード様にその気持ちを告げてみては?
嬉しいと言われれば悪い気がしないでしょうし――それに」

「それに、何でしょうか?」

「振られた恋を払しょくするには、新しい恋愛をする事です。
フュリーは私から見ても、申し分の無い素敵な女性ですから
クロード様との恋愛に生きても良いと思います」

「そ、そうですか。そんな事はありませんが――新しい恋愛。
そうですよね。分かりました。正直
どう返事をしたものか迷っていましたが……吹っ切れました。
エーディン様。ありがとう御座います」

エーディンは、ぱっと表情を明るくし大輪の花のように笑った。
フュリーも笑顔を浮かべて心の中で呟き。
私は、――エーディン様のように上品で知的で人の情を知る訳でも無い。
そしてシルヴィアのように明るく、人々を和ませる踊りで心を癒せる訳でも無い。
それでも――クロード神父は私を見てくれて居た。
だから、付き合ってみるだけなら良いですよね?と。

次の日、フュリーは礼拝堂に居たクロードに自分の心の内
を告げる。

「では、今日から私と貴女は友人以上、恋人未満――と言う事ですか」

「はい、いきなり恋人同士と言うのも気恥ずかしいので……
それでお願いします」

「ははは、友人同士ですら無かった私達が今の関係になったなら
そこには希望がありますよ」

「希望、ですか?」

「仲が進展して何時かは結婚も視野に――という事です」

「えっ」

フュリーは、吃驚して口を半開きにして驚いて居た。

「け、結婚はまだ考えて居ませんけれど――とりあえず。
今日はシレジア城の中庭に一緒に行きませんか?クロード様にお見せしたい物が
あるんです」

「おや、何でしょう?」
「こちらへ」

二人は連れ立って中庭に移動する。
そこには、寒さに負けず咲くクリスマスローズが、沢山植えられて居た。
丁度中庭の上には屋根が作られており、ここまで雪が吹き込む事は無い。

「奇麗で、たくましい花ですね」

クロード神父は、そう感想を告げる。そして隣に居るフュリーを
見ながら

「私にとっては、花よりフュリーさんの方が何倍も美しく見えていますが」

「えっ、嬉しいですがそれは、褒めすぎでは無いですか?」

「褒めているつもりは無くありのままを言ったまでですよ。
でも花の素晴らしさ、生命力にも一目置いているのです」

「そ、そうですか。はい、この花はクリスマスローズと呼ばれここに
植えられているのは特に耐寒性が優れるように交配された品種なんです」

フュリーが白とピンクの混じった花々をそっと指さす。

「クロード様のおっしゃる通り生命力溢れる
この花の強さを、見て貰いたかったんです」

「生命力、と言えば人間にもエーギルと言う生命エネルギーがありましてね。
この話は以前にしましたか?」

「ティルテュ様が確かクロード様から説明を受けた、と言っていましたね」

「シグルド様の軍の皆さんはエーギルの強さが桁違いに強いのです。
だから寒さの中の行軍でも、まるで勝手を知った渡り鳥のように迅速でしたね」

「ふふふ、雪国育ちのレヴィン様も驚いて居ましたね……あっ」

「どうかしましたか?」

「ごめんなさい、レヴィン様の事は過去の事。あまり言わない方が良いですよね?」

フュリーはすまなさそうにクロードに告げる。

「いや、名前を出すぐらいなら問題は無いのではありませんかね。
これからはレヴィン王子とは今まで通り主君と騎士と言う関係で良いと思いますよ。
それより今日ここにデートに誘ってくれた事、嬉しく思います。
フュリーさんから招いてくれて私は幸せ者ですよ」

「デート?確かにデートですね。ふふふ」

「はい、そうです。こうやって少しずつ、心を繋いで行くのですよ」

「心を繋ぐ、なるほど素敵な響きですね。クロード様は、
デートには慣れていらっしゃるのですか?」

「そうでも無いですね。ハハハ。貴女と

居るのは楽しいですがね」

和やかな会話を交わし寄り添うように花壇を散策する二人。
その様子を偶然、厨房から出て来たエーディンが遠くから見て居た。

(ふふ、上手く行っているみたいですね。応援していますよ)

密かに声援を送る。

それから一時間程、フュリーとクロードは楽しく語らい、花を満喫し
その光景は既に睦まじいカップルのように見えたかも知れず。


-END-