徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

『暗夜王国の影』Part2

ファイアーエムブレムif 二次創作SS『暗夜王国の影』Part2

 

「物乞いには、通常は組織があってその元締めが
末端の稼ぎを厳しく管理しているの。
それで、稼ぎが少ない弱者……特に子供はより稼げるように
大人に片腕か片足を斬り落とされ……時には顔の半分に焼けた鉄杭を
押し付けられて不具にされる場合がある。
その方がより、憐れみを誘い同情を引き易いから」

マークスは眉間に皺を寄せて、神妙に聞いて居た。

 

「私に出来る事は少ないが……」

彼は立ち止まって、近づき懐の財布から銀貨を出すと大人と子供が入り混じった
数人の物乞いの前に置かれた欠けた食器にチャリ、と順番に入れて行く。

物乞い達は、おおっ!とどよめきを上げて
身なりの整ったマークスを感謝の眼差しで見上げて居た。


マークスは続けて

「……それで何か美味しい食べ物でも買うといい」

そう言うとベルカを伴って静かに道を進んで行く。
銀貨数枚は、彼らにとっては明らかに大金で
当分の間は手足を斬られると言う事は無いだろうと言うのは
ベルカにも分かった。しかし……

 

「マークス様、それは根本的な解決にはならないわ。

この街中に物乞いはまだまだ居る。

それでも彼らは、物乞いであるだけまだ幸せな方。
食うに困った親は、息子を非正規の劣悪な環境の
炭鉱に送り死ぬまで過酷な労働を強いる。
娘は12歳になれば売春宿に売られ娼婦として働かされるの。
街では、麻薬の売人が隠れて商売をし、引ったくりに
詐欺、快楽殺人、強盗……ここは治安が乱れに乱れた最下層の場所。
私が、あなたに見せたくなかったのはここが最悪の場所だから」

「それでも、お前が生まれた場所なのだろう?
最悪だったとしても、故郷なのだろう?」

厳しく見える表情で、しかし言葉には優しさを込めて
マークスが問いかける。

「……ええ。そうよ。」

「ならば未来の伴侶の私にとっても故郷だ。
……ただ、貧民街で暮らしていく術は当然分からんがな」

「……マークス様」

ベルカは、マークスの言葉を聞いてまた心の中がもぞもぞと動き出した。
何と王子は不思議な男なのだろうか。
この想いを口にするならば……

 

「あなたは不思議な人ね、清濁併せ飲む……
そして光も闇も受け入れる……この国の跡継ぎとして
相応しいのはあなたしか居ないのかもしれないわ」

「それは当然の事だ。
常に、暗夜王国の表面も裏も見て居るつもりだからな。
今日、ここに来て思った事を言うぞ。
私が王になった暁には貧困に喘ぐ人々に対して何らかの施策を
する事を約束する。……人間が人間らしく生きられるよう、
国民が苦しむ事無く笑顔になるように。そして王たる私の隣には何時でも
お前に居て欲しいのだ」

「そうね、貧民街の情報や実情を伝えるのは私に任せて。
そしてありとあらゆる闇を見せるわ。」

 

(私のように暗殺者としてしか、生きる道がなかった
子供が一人でも居なくなるのなら……)

 

初めて、ベルカは僅かに信頼の灯った瞳の色をマークスへ向けた。
マークスは、その気持ちをしっかりと受け取り
ベルカの腰に手をゆっくりと回すようにして引き寄せる。

 

傍から見て睦まじいカップルに見える2人は並んで貧民街を
隅々まで歩く。貧しさから抜け出せない人にも生活はあり、
彼らなり生きているのだと貧民街は語っていた。

 

ベルカは、一緒に歩きながら
暗夜王国の夜明けは、案外近いのかもしれないと静かに思った。


~~~終わり~~