徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

『暗夜王国の影』Part1

ファイアーエムブレムif 二次創作SS『暗夜王国の影』Part1

 

ベルカは、まだ信じられずに居た。
数日前に、暗夜王国の第一王子マークスから
正式にプロポーズを受けた事を。
だが、これは現実だ。
自分の指に白く輝く婚約指輪がそれを示してる。

その美しい輝きをじっと見ながら顔を俯かせていた。

 

生まれた時から、親兄弟の顔すら知らず
物心がついてからはずっと暗殺稼業をして生きて来た。
10歳の頃には、既に他者を殺め、その事実に最早
何の感情も抱かない。非情の殺し屋ベルカ、と

呼ばれ恐れられて来た。

 

女らしい所は一つも無く、極めて淡々と
仕事をこなしそして仲間内の人間関係ですら
常に一種の緊張感と共にあり……そんな日々を送って来た。
正直、最初はマークス王子の冗談か何かだと思って居た。

しかし、王子は冗談を言うような人柄には見えなかった。
とても真剣な面持ちで言ってくれたのだった。

『家族を知らないなら、これから私と家族になればいい』と。

それは、真っ直ぐなプロポーズであり
ベルカは人を殺した時よりもはるかに動揺してしまった。
ただ、暗殺者の常かその動揺は表情には出ず
自分の心の内を晒け出す事も無く
指輪は静かに受け取った。

 

今では自分の心の状態がよく分からない、私はマークス様の
事が好きなのか分からない……しかし悪い気持ちでは無い。
今まで感じた事のない何か暖かさのような
くすぐったいような気持ちだけが漠然と心に宿っているのだ。

 

薄い水色の細い髪質の髪を掻き上げて部屋で
窓の外を見て居た。

マークス王子は、指輪を渡して来る時同時にこうも言ったのだ。
『お前の生まれ育った場所、貧民街を一度見てみたい、お前の全てを知りたい』と。

貧民街出身のベルカでこそ、あの荒んだ光景は慣れた物だったが
まさか第一王子が足を踏み入れる場所でも無い、と
最初は止めた物だ。
しかし、マークスの意志はとても強く
どうしても見に行きたいのだ、と時間を作って
明日貧民街へと案内をする事になった。

 

明日は、雨が降らなければいいが……とベルカは窓の向こうに見える
どんよりとした街並みを見て居た。
今はカムイの城を離れ、暗夜王国の一角にある宿の一室に居る。
マークスは同室で、と言って来たが流石にそれは断って
一人落ち着く小さな個室で身を休めて居た。
こう言う日は、早く寝てしまうに限る。
形としてすら成って居ない孤独や虚しさを感じて居た今までと違って
良い夢が見られそうだが。

 

何事も無く、次の日となりベルカはマークスと2人で久々に
出身街の土を踏む。


『そこ』は、相変わらずだった。
汚い建材がそこら中に乱雑に積み上がり、道は舗装されて
おらずでこぼことして非常に歩きにくい。

立ち並ぶ家もボロボロでお世辞にも外観は美しいとは言えず
その家の軒先で物乞いが数人座って居た。
ベルカは、ちらりと横目で見て物乞いをしている子供の

手足を密かにチェックする。

剥き出しの足は、泥で汚れて居た物の丈夫そうだった。
無意識に軽く息を吐くと隣のマークス王子が、不思議そうに
首を傾げて居た。

 

「そんなにあの子供の事が気になるのか?」
それについて正直に答えるべきか迷ったが、逡巡は一瞬の事で
ベルカは小声で訳を語る。

 

Part2へ続く