徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

聖戦の系譜二次創作小説・「さよならの後に」Part1.

ファイアーエムブレム聖戦の系譜/SS
『さよならの後に』Part1.

 

シレジアの冬は長く、寒さが厳しい。
そして春は、はるか遠い。
雪が鬱蒼と降り積もる中でも、
一つのある明るい話題があった。


シグルド軍に所属する一組のカップルが
華やかな結婚式をシレジア城の中で
行ったのである。
シレジア王国の王子であるレヴィン。
そして新婦の踊り子シルヴィア。
明るい雰囲気の中で二人はきちんとした正装に身を包み、
仲間から祝福されて腕を組みながら赤い絨毯の上を歩いて行く。
外の寒さにも負けない温かい笑顔と、鳴りやまぬ拍手の中――
二人は誓いのキスを交わす。
その前方では祭壇に立ったクロード神父が、厳かに杖を掲げて
聖なる祈りをもって二人を祝って居た。


誰もが、幸せな顔をして取り囲んでいるかと
思いきや、一人内心に複雑な心境を
抱え少し浮かない表情を浮かべて佇んで居る女性が一人。
シレジア王家に仕える天馬騎士の一人、フュリーである。
フュリーは長い間、レヴィンを慕って居たのだ。
片思いかもしれなかったが、想い続けて諦めなかった。
なのに――。レヴィンは自分の手の届かぬ所に行ってしまった。
悲しいけれど、苦しいけれどこれは紛れも無い現実だ。


皆にばれぬように軽くため息を付くと、
水色のパーティードレスに身を包んだフュリーは
そっと一人、会場となった広間を
抜けて城のバルコニーへと歩いて行く。
止む事無く降って来るミゾレ状の雪が、首元へと
滑り落ちてきてその冷たさに
ぶるりと一つ震えた。

 

(シルヴィアの立つ位置に、――もし。私が立てて居たら)

 

この世にもしも、なんて無い。
だから私もレヴィン様とシルヴィアを心から祝福しなくてはいけない。
そんな事を考えていると、背後から誰かの気配がした。
ゆるり、と首をそちらに向け緑の瞳をこらすと

そこには長身の神父、クロードが。
少し眉を寄せて困った風な顔をしながら、

「フュリーさん。そんな所に居ると風邪を引きますよ?」

「お気遣い、ありがとう御座います。直ぐ戻りますので……」

「はい。暖かい部屋へと戻ってください。
それと何か悩み事がありそうな顔ですが、私で良ければお聞きしますが」

 

フュリーは、性格が真面目故に直ぐに顔に心の内が出てしまうのだ。
隠していたつもりでもどうやらクロードには、分かっていたようで。

 

「ありがとう御座います。

それでは懺悔と言う形でクロード様にだけ言いたいと思います。
移動しましょう」

 

フュリーとクロードが、祭壇のある部屋へと戻るとそこでは
既に式は終わり別室へと皆パーティーの食事を
食べに行ったようだ。

しん、と張りつめた厳かな空気、暖炉の薪の燃え残りが煙を上げている。

フュリーは少し逡巡すると、クロードに

 

「実は――レヴィン様の事で」

「はい」

「懺悔させてください。私はまだレヴィン様への
想いを心の中に隠しています」

「そう、でしたか――。貴女はずっとレヴィン王子を

支え密かに想い焦がれていた。
それで合っていますか?」

 

クロードが告げるとフュリーは、恥ずかしそうに

僅かに首を振り頷く。

「そしてレヴィン王子とシルヴィアさんが夫婦に

なった後もその想いを捨てきれず
それが罪だと分かっていても――レヴィン王子を

愛しているのですね?」

「は、はい……そうだ、と思います」

 

フュリーは、もやもやとやり切れぬ想いを抱えて

そしてそれを吹っ切れずに居た。
それでも、こうしてクロード神父に話す事で少し気が楽になったのか、
先程までの表情は幾分か和らいで居る。

 

「それでは私から提案なのですが――レヴィン王子への

愛を一度横に置いて
私と、一度付き合ってみませんか?」

「えっ……!?」

大きく目を見開きかなり驚いてフュリーはクロードを見上げた。

「付き合うってどう言う意味ですか……?まさか?」

「唐突に告げてしまってすみませんが、これが
一番良い解決策のような気がしまして。
正直に言います。私は以前からフュリーさんの誠実で

飾らない真っすぐな性格を好ましく
思っていたのです。どんな難局でも負けず、

仲間や主君を守る為に空を駆ける――そんな
貴女の姿を何時の間にか目で追うようになって居ました」

「クロード様、そんな――からかわないでください」

「私は冗談は言いません。もう一度言います。フュリーさんさえ良ければ
私と付き合ってくれませんか?」

「私が、まだレヴィン様への気持ちを断ち切れずに居るのを知ってその言葉ですか?
少し考えさせてください……」

「はい、待ってますよ。フュリーさん」

 

Part2へ続く