聖戦の系譜二次創作小説「青き花の小さな言葉」Part2.
そして舞踏会の当日になった。
その日は、グランベル帝国内で一番大きな催しだった。
何でもアルヴィス皇帝の長子ユリウス皇子の生誕祭だそうだ。
「ティニーにユリウス様をご紹介するわね」
薄紫の髪を大きく結い、いつもと違う三つ編みの編み込みをして
黒いドレスを羽織ったイシュタルが
壁の花となって、おどおどとしていたティニーをバルコニーに連れ出す。
そこに、皇子は居た。
美しく輝くワイングラスの中には、お酒ではなく果実の汁が
入っている。それを傾けながらユリウスは、振り返ると
イシュタルが連れて来た少女をじいっと見つめる。
(あ……この方がユリウス、様……。なんて
恐ろしい蛇のような目をしているの……)
ティニーの彼への第一印象は最悪だった。ユリウスの赤い瞳は
獲物を値踏みするような輝きを放っており額には、黒く不思議な痣のような
物がある。この不気味な痣は、何だろう。とティニーはひそかに
観察をしていた。
「ユリウス様、こちらが私の従妹のティニーです」
「へぇ、やはり従姉妹なだけあって雰囲気が似ているね。
尤もイシュタルの方が堂々としているけれど」
「あの……ユリウス皇子様。今日は舞踏会にお招きにあずかりありがとう
御座います。ティニーと申します……」
忘れ名草色のドレスは、ティニーによく似合っていた。
それでもふい、とユリウス皇子は視線を逸らすとティニーにはあまり興味が
無さそうで隣のイシュタルに目を移す。
その傍にイシュタルが、移動すると今度は彼女の肩を自分の方に
抱き寄せ仲睦まじく何か語らっているようだった。
(イシュタル姉様とユリウス皇子は恋仲だったんですね……)
次期皇帝の皇子とイシュタル姉様。
お似合いの二人だとは思うが、ティニーは先程感じた恐ろしさと違和感を
思い出し手放しでは喜べない。
(このままだと、何か恐ろしくて悲しい事が起きるのでは……)
しかし口には出さず、むつみ合う二人の邪魔にならないようにそっと
バルコニーを出た。
その後は、若い貴族の男から何度かダンスに誘われ断る事も出来ずに
三回程ダンスを披露した。
しかしティニーは、内心それを苦痛に思う。
早く、静かな書庫にでも逃げたかった。知らない男性も怖かったし
ざわざわと人同士が語り合うこの場の雰囲気も自分には全く合わなかった。
「ティニー、ごめんなさい。一人にしてしまって」
漸くティニーの所に戻ってきてくれたイシュタルが、申し訳なさそうに
軽く謝る。
「姉様、私は大丈夫です。ユリウス様とダンスは踊られましたか?」
「ええ、今さっき申し込まれて今から踊る所よ。
ティニーにも見てもらいたくて」
向こうからユリウスがやって来ると、イシュタルに手を指し伸ばす。
ふわり、と柔らかくその手の上に自分の腕を乗せるとイシュタルたちは
ダンスホールの真ん中へと進み出て行った。
室内の楽団がワルツを奏でている。
その音色に合わせて床を滑るようになめらかな動きでそつなくダンスを
踊る二人に、この舞踏会に居合わせた誰もが目を惹かれる。
それ程までに美しく、きらきらとした雰囲気を醸し出し
注目を浴びる二人だった。
磨いたガラスで作られたシャンデリアが、光を帯びて美しく輝く。
まるで若い二人を祝福するように。
その輝きがあまりにも眩しくてティニーは、こっそり
バルコニーに移動していた。
今は無人のそこは、屋内の喧騒からは離れた場所でティニーはこっそり
安堵の息を吐いた。
そして自分のドレスを眺める。
(忘れ名草の花言葉は……)
ふと、その言葉を思い出した事で悲しいような寂しいような面持ちに。
『私を、忘れないで』
ユリウス皇子にイシュタル姉様を取られたみたいで少し
寂しかった。
ずっとずっと……私を忘れないでください。
私は、ここに居ます。
青の可憐なドレスを着た少女は、早くこの舞踏会が終われば良いと
願っている。
終わればまた日常に戻れるから。
バルコニーの背後で、イシュタルが自分を探す声が聞こえる。
ダンスはもう終わったのだろう。
ティニーは、踵を返すと幾分か弾むような足取りで
室内へと戻って行くのだった。
End
聖戦の系譜二次創作小説「青き花の小さな言葉」Part1.
ゴーンと、死者を弔う教会の鐘の音が低く鳴り響く。
泣きはらした目をして、ティニーが教会へと運ばれて行く棺を
黙って見送っていた。
「ティルテュお母様……」
八歳になったばかりのティニーは、既に人が死ぬ事の概念を
学んでいた。亡くなればもうその人には二度と会えないのだ、と。
たった一人で、残されたティニーには絶望しか無かった。
そっと胸元に下げてあった形見のペンダントを取り出す。
美しいルビーの埋め込まれたそれは、ティニーを僅かばかり元気づける。
『貴女にはお兄様が居るのよ。離れ離れで過ごしているけど
きっとそのペンダントが、貴女たちを繋いでくれる』
病で日に日に体が弱って行くティルテュは、ティニーを
安心させるように柔らかく語り掛ける。
ティニーは、母親の弱った姿を見るのが悲しく
陰でこっそり泣き暮らしていた。
そんな中でも、従兄姉のイシュトーとイシュタルだけは
ティニーに何かと気をかけてくれて優しく接してくれたのだ。
そして今も。
ティニーの傍に黒い喪服を着たイシュタルが
心配そうに歩いて来た。
「ティニー、これからは私が貴女の本当の姉になるわ。
だから今まで以上に頼ってね」
「イシュタル姉様……」
心細さに震えていたティニーは、イシュタルの胸に顔を
埋めるようにして抱き着いた。
何と暖かい、何と頼れる従姉なのだろう。
嗚咽をあげてティニーは泣いた。泣く事を一切
我慢しなかった。イシュタルは、そんなティニーの自分と同じ色の髪を
梳くようにして優しい手つきで撫でてやる。
ティニーは心の奥底に閉じ込めていた涙を沢山流した。
いつの間にか棺は、馬車に乗せられ恙なく
教会へと移送されていった。
「私たちも行きましょう」
もう一つの馬車の前へと行くとそこには、
伯父のブルームが既に乗り込んでいた。
厳めしい顔つきの、だが娘やティニーには酷く優しい伯父は
馬車に乗り込む際手を差し伸べて乗るのを助けてくれた。
ティニーは、伯父には一切恨みは無い。
憎いのはあのヒルダなのだ、とこの場にヒルダが
同席していない事を内心喜んでいた。
「ヒルダ伯母様はどうされたのですか?」
「一足先に教会へと着いている筈だ。お前はヒルダが
苦手なのだろう?さぁ、早く乗りなさい」
その言葉にびくっとティニーが大きく震える。
お母様は、ヒルダに虐め殺されたのだ……と幼いながらも
きちんと分かっていた。
ヒルダは裏表の無いさばさばとした性格だったが、その分
率直な物言いをし自分が嫌いな人物には容赦がない。
『お前のような尻軽女は、フリージの一族とは認めない。
反逆者の一員とガキまでこさえて、お前なんか早く死んじまえっ!』
何度も死ねと言われて、ティルテュの心身は限界が来ていた。
だが、ティニーの前でだけは本音が言えた。
『シレジアへ、戻りたい……あの人とまた会いたい。
アーサー……今何処に居るの』
白い頬に涙を零し、ティルテュは何度も呟いた。
その涙を見てティニーも釣られて泣いてしまう。
ぽろぽろと静かに涙の粒が、母親の手の上に落ちる。
母子は、ただ抱きしめ合って泣くばかりだった。
ティニーは幼心に自分の無力を恨んだ。
自分に力があれば、お母様を助けられるのに。
恨みつらみはヒルダに集約していった。
時には、ティニーはヒルダに強かに頬をぶたれる事もあった。
そんな時、いつも窘めて庇ってくれるのはイシュトーとイシュタルだ。
あの時から母の死から既に、五年の時が経っていた。
「ティニー、舞踏会に着て行くドレスを作りましょう」
ティニーの部屋には煌びやかなワンピースを着たイシュタルが
訪れていた。
「姉様……私は社交界には出たくありません」
「何を言うの?社交界デビューするには遅すぎるぐらいよ。
さぁ、我儘を言ってないでドレスの採寸を」
既に、採寸をする為に動員された女官は
部屋の前まで着ていた。
ここで断ってイシュタル姉様を困らせるのも忍びない。
ティニーは渋々彼女らを部屋に招き入れ、体のサイズを測って貰う事にした。
「色はどんなのがいいかしら?貴女の希望を教えて」
イシュタルが、楽しそうに尋ねる。
ティニーは少し考えた後、
「では忘れ名草の花色にしてください」
「分かったわ、淡い青色ね。舞踏会は、三週間後よ。
それまでにダンスのレッスンもスケジュールに入れて
おくわね」
「分かりました……」
ダンスの練習は、好きでも嫌いでも無い。だけど人が大勢居る場所は
引っ込み思案なティニーにとっては苦手な場所である事は間違いない。
それでもイシュタルが誘ってくれるならば。
そこに間違いはないのだ、と従姉に全幅の信頼を寄せていた。
(忘れ名草の色……どんなドレスが仕上がるのかしら)
年頃の女の子らしく、服飾には興味があった。
【Part2.に続く】
ベルウィックサーガ二次創作小説「戦火の中の願い」
心臓がドクン、と大きく跳ねた。
少女が所属するのはレプロン市に迫る帝国弓部隊の小隊である。
戦争をする、と言う事は人を殺す事──武器を取り、
武器を構えて命を奪う。
そんな事が本当に出来るのだろうか、と。
以前山賊狩りを命じられた事があった。
その時、山賊の一人の眉間を撃ち抜いたその事実に自分は震えたのだった。
少女ソフィーは、帝国の新兵器である
パスカニオンと呼ばれる弩のテスト兵である。
強力無比な性能を持つパスカニオンだが、試作途中なので
欠陥があり時折暴発しては、次々にテスト兵が事故に巻き込まれていた。
(今から、残党兵を狩るのね)
ソフィーは憂鬱な内面を漏らすまい、と無表情を装って
いたが彼女の姿は誰がどう見ても緊張と悲しみを湛えている
ように見える。
あらかじめ聞かされていたのは、逃げ遅れた市民を助ける為に
ヴェリア国の騎士の部隊が出動している事。
場合によっては、市民を殺害。又は捕縛しても構わない事。
ソフィーは、出来れば無抵抗の者を手にかけたくなかった。
そして敵とは言え、ヴェリアの騎士も──。
しかしそんな甘い理屈が通用する筈も無い。
しっかり自分の役目を果たさなければ、従姉のルーヴェルに
激しく罵られ力一杯頬をぶたれる。
頬の痛みはどうでもいい、心が痛むのだ。
レプロン市は、たちまち帝国兵士に蹂躙されあちこちで
火の手が上がっていた。
「おい、そこの」
同僚騎士の低い男の声が鎧兜の隙間から聞こえた。
「はい、私でしょうか?」
「確かパスカニオンのテスト兵だったな?
そんな所でぼーっと立ってないで怪我人を後方に
運んでくれ」
「は、はい……!」
何故か内心でほっとしながらソフィーは、足元を
ふらつかせる自軍の兵士の元へ駆け寄り肩を貸す。
「それでは、パスカニオンのテストは……?」
「そんなのは適当でいい。レプロンは、既に帝国兵が
占拠しつつある。
傷病兵を速やかに治療させるのが、この小隊の第二の任務だ。
俺も手伝うから」
ソフィーは、その兵士の言葉に内心ほっと胸を
撫でおろした。
パスカニオンがまだ欠陥品で、暴発の危険があったから
それを使わなくて済んで安堵したのでは無い。
無辜の民、或いは敵の兵士に武器を向けなくて済んだからだ。
ソフィー達は、後方のキャンプ地へ戻って行く。
森を通る時、耳聡く誰かが木の葉を踏む音が聞こえて来た。
「残党かもしれません。私が見て来ます。
貴方は、なるべく音を立てずにキャンプへ進んでください」
ソフィーは、パスカニオンを構えると木の影を利用して相手の
死角から目を凝らした。
視界には、猟師風の金髪の青年が、困った風に
とぼとぼと歩くのが見える。
服装は、簡素な胸当てを付け背中には弓を背負っている。
猟師なのだろうか、それともヴェリア軍だろうか。
判別は付かないが帝国兵の鎧を纏って居ないから雰囲気からして
後者なのだろう、と。
ソフィーはパスカニオンを構え照準を合わせてから
その男の前にゆっくりと歩み寄った。
「弓を、捨てなさい」
男がぎょっとした風に、こちらを眺めて来る。
相手も弓を構えた姿勢のままで、
「木の影から見えた時にはまさかと思ったが本当に女だったとは。
参ったな、俺はこんな所でやられる訳には……」
「弓を速やかに捨てなさい」
ソフィーの二度の警告を無視して、男が今にも
矢を放とうとした。
それより早くパスカニオンが、火を噴き
充填されていた矢が男の肩口を掠めていった。
「そ、……んな。アリーナ……ごめん」
ゆっくりと意識を失っていく男の口から
女性と思わしき名前が漏れた。
「そう、故郷に恋人が居るのね。だからこんな無茶を」
完全に気を失い地面に倒れた男の元へ進み、
膝をついて怪我の様子を見る。
(良かった、致命傷では無いわ……)
甘い考えだとは分かっていても、助けられる命は助けたい。
ソフィーは、懐から膏薬を取り出し傷口に塗ってやる。
そして自分の白のレースのハンカチを包帯代わりに巻き付けた。
(この事を知ったら、ルーヴェルお姉様は怒るかしら)
兵士としての覚悟があるなら、敵に情けをかけずに殺しなさい。
そんなルーヴェルの声がソフィーにははっきりと
聞こえて来るようだった。
だから、今日の出来事は秘密の中の秘密に。
だけど、アリーナと言う名前を聞いた時に沸き起こった自分の
気持ちは何だろう、とソフィーは自分に問うてみた。
恋人が居るのが羨ましかった?
ううん、私と同じぐらいの年齢の人なら初恋や恋の体験は、もうとっくに
済んでいる筈。とは言っても自分は誰かと恋をした事は
無いけれど。
ソフィーは足早に帝国軍のキャンプ地へと移動して行く。
(名前も分からない──けど、また戦場で会う気がする。
金髪の猟師さん。その時は)
自分にどんな顔で対峙して来るのだろう。
その時の事を想像して、ソフィーが気持ちが沈んで行った。
「早く、早くこんな凄惨な戦争は終わってください。
人と人が殺し合うのではなく──人と人が手を結びあって
助け合う。そんな世界を……」
それはソフィーの小さな願い。
そっと小さく呟いた言葉の調べは森の葉擦れの音に搔き消えた。
その日、レプロン市は完全に陥落した。
End
生存報告
御無沙汰しています。
長かったGWも今日で終わりですね。
すこぶる元気で過ごしております、と言う生存報告と
レトロゲームの二次創作小説は最近はずっと、pixivに
投稿しております。
pixivのページ→bokoneko - pixiv
よろしければ遊びに来てやってください🎵
ジャンルは雑多で、一貫していませんが少しずつ不定期に文章を
投稿しております。
聖戦の系譜二次創作小説 ・「束の間の日常」
「んしょっ……」
山積みの本を抱えて、書斎からティニーが
出て来る。
ここは、コノート城。
ティニーの伯父であるブルーム王が倒された地。
今はセリス軍が、滞在し次の拠点への足掛かりとなって居た。
ティニーは一人、伯父の遺品とも言える沢山の書物を
運び出しその知的な財産を無駄にせぬよう
自室で読み耽る日が続いて居た。
ぐらぐら、と危なっかしく揺れ視界を遮る本を持ちながら前方から
誰かが来るのが見えなかった。
「おい」
ふいに声を掛けられ一瞬だけびくっと体を震わせ
次の瞬間に手元の本の山が誰かに奪われて居た。
「そんな細腕でこんな分厚い本を一人でか?手伝ってやるよ」
視界が開けると、そこには金髪碧眼の少年が居た。
ティニーの兄のアーサーと同じぐらいの年齢の
少年だ。
「あ、えっと……、ありがとう御座いますっ」
ぺこん、と軽くお辞儀をして次に不思議そうな顔になるティニー。
セリスの軍の人間なのは分かるが直接この少年と面識は無かった。
「えと、どちら様でしたっけ……」
ティニーの代わりに軽々と積みあがった書物を持つ少年は
ちょっと笑みを見せて、答える。
「俺はファバル。ブルームに雇われて居たヒットマンさ」
「ファバル、さん……」
そう言えばコノートを制圧する数日前にセリスの命を狙う
ヒットマンがこちらへ向かって居た、と言う情報はあった。
だけど、遠く離れていた場所だったので
ファバルと遭遇する事は無く今に至る。
「あの、私はティニーって言います」
「ティニー?アーサーの妹の?」
「は、はい……」
「そっか、よろしくな。じゃあこの本は何処まで運べば?」
こちらです、と先に歩いて移動すればファバルは
その後に付いて行く。
自室の前まで辿り着くと、部屋に二人で入りそれからテーブルの上に
本を置いて貰った。
「それじゃあな」
「あ、ありがとう御座います。後日お礼は必ず……」
「いいよ、別に。お節介で手伝っただけだしな」
ははっ、と笑ってファバルは行ってしまった。
ティニーは、積みあがった本を前に、テーブルの前の椅子に腰かけると
頂上の一冊を手に取った。
『雷魔法における実践戦術論』
と書かれたそれは、かび臭いような匂いのする
古めかしい本だ。
おそらくこの本を含む他の本を読破するには数日掛かるだろう。
ティニーは伯父の事を思った。
何時も厳しく多くを語らない人だったけれど、それでも私を
こうやって大事に育ててくれた。
イシュタル姉様や、イシュトー兄様はとても
仲良くしてくれた。
まるで本当の兄姉のように。
しかしそこである一人の女性の顔を思い浮かべる。
ブルームの妻であり伯母のヒルダ……
ヒルダを思い出すと途端に体が震え始める。
ヒルダは、ティニーと亡き母を嫌い陰湿な虐めをし続けて
来たのだ。
しかも、他人に気が付かれないように巧妙にかなり陰惨に。
それでどれ程泣いただろう。
辛い気持ちを重ねて来たのだろう。
悪い仕打ちは良い仕打ちの記憶を簡単に凌駕する。
ブルームの死を悼む気持ちはあっても、ヒルダのかつての行いが
ティニーを悲しくさせるのだった。
それから数日後――
ファバルの自室のドアがコンコンとノックされた。
「開いてるぞ?」
「あの、ティニーです。今からお茶会にお招きしたいと――」
時刻は丁度15時前。昼食から時間が経ち小腹が空く頃合いである。
「お茶会?随分上品なんだな」
孤児として長く暮らしてきたファバルにとってお茶会等と言う習慣は
聞き慣れない物だった。それにファバルは男だ。
一か所に集まって語らいながら甘味を
楽しむなんてガラじゃないし
喉が渇けば適当に水を飲むか、腹が空けば厨房で食事の支度をして
居る途中のをこっそり
くすねて来るか――どちらかしか発想が無かった。
それでも何か断り辛いような気配を感じてとりあえずドアから顔を出して
了承の言葉を掛ける。
「良かったです、ではお越しください」
敬語を使うティニーの態度すらくすぐったくなって、ファバルは何処か
居心地が悪そうな顔をして居た。
ティニーと一緒に連れ立って歩いて行くと、途中でパティやレスターと
すれ違いかなり好奇の目で見られる事になる。
特にパティの態度は露骨で『お兄ちゃん、やるじゃん!?』な
言葉が今にも溢れそうな程で、これは後で
根掘り葉掘り事情を聴かれるだろうな
と言う事は容易に想像がついた。
(ま、別に何もないしな?)
妹に何を聞かれようとただ、茶を一緒に飲むだけだしな、と
ファバルは気楽な気持ちでティニーと連れ立って歩く。
部屋に着くと、ふんわりと柔らかい紅茶の香りが鼻をくすぐる。
そしてセッティングされたテーブルの上には真っ白な
テーブルクロスが掛けられて居た。
その上には銀食器が置かれ、クッキーとマドレーヌが
見目好く並べられて居た。
(こう言う場はちょっと困る……)
何処か自分が場違いにも感じる空気にファバルは内心冷や汗をかくも、
ティニーに促されるままに席についた。
「こう言う時って何て言えばいいのか分からねぇ。
招いてくれてありがとう、とでも言うのか?」
「ふふっ、気楽な気持ちで紅茶を飲んでお菓子を楽しんでくだされば」
「敬語って奴は俺には要らないぜ。その、何だ、困る」
真向いに座るティニーは、その言葉にきょとんと眼を丸くして居たが
分かりました、と頷き。
立ち上がって陶磁器のティーポットを持つと
ファバルの前に置かれたカップに注いで行く。
そもそも紅茶を飲む慣習の無いファバルだったが
一口口を付けるとその美味しさにぱっと顔を明るくした。
「紅茶ってこんなに美味かったんだな!」
それを見てティニーは微笑むと自分のカップを持ち上げて
口に運んで行く。
「お口に合ったようで、嬉しいです。その、この間は
助かりました。本を運ぶのを手伝ってくれて」
「ああ、別に大した事じゃ無いさ。あんな重い本、女の子一人じゃ
無理があったからな」
「私、嬉しかったんです。私にも何か手伝える事があれば是非
言ってください」
柔らかに微笑むティニーを見て、ファバルは内心照れくさいような気持ちを
持ちながらも
大人しくクッキーを摘まんで居た。
ああ、こう言うのもたまには良いよな。とその場の暖かい雰囲気に飲まれつつ
頷く。
「もし、手伝って貰う事があればその時言うさ」
と、俺は本読まないから分からないけど、あの本は何て言うんだ?」
「フリージ家の所蔵する戦術本なんです。この間運んでくれた本は……」
「ああ、頭痛くなるからやっぱりその話は無しで。とりあえず小難しいって事だけは
分かった。ご馳走様。菓子美味かったぜ。
ティニーが焼いたのか?」
こくんと肯定し、ティニーは様子を窺うようにファバルを見て居た。
何処か小動物を思わせるその姿にファバルは和やかに微笑むと
大丈夫、美味かった!と安心させるように二度目を言った。
その言葉にようやくティニーは安堵の息を零し、喜びの溢れる顔で
笑った。
クッキーの量は少しで腹具合は完全には満たされなかった物の
ティニーと過ごす時間はそれなりに満足出来る物で。
お茶会が解散となった後に、直ぐに舞い込んでくるマンスター城へのトラキアの
竜騎士襲撃の知らせだ。
慌ただしく戦支度をするセリス軍の中には、聖弓イチイバルを手に
張り切るファバルが居た。
同じく弓兵のレスターも自前の勇者の弓を掲げて、真っ先に出撃して行く。
その後にティニー、アーサーの魔道士部隊が続く。
そして戦場でファバルは、弓で勢い良く竜騎士を屠り
その隣では魔道書を手にファバルを助けるティニーの姿があったと言う。
End
聖戦の系譜二次創作小説 ・「さよならの後に」Part2.
与えられた部屋に戻り普段着に着替えると、途端に部屋の
寒さが身に染みた。
肌に突き刺さるような冷えた空気は、幼少期からシレジアで
住んでいたが故にもう慣れた物だと思っていたが
別の意味で堪えるようだ……どうやら心が寒いらしい。
それでも、フュリーはクロードの言葉を反芻し、
一生懸命どう答えようかと
考え込んで居た。
ベッドに一人腰かけて、考えるのはクロード神父の人柄の事。
神父様は、常に実直で軽々しく付き合ってほしいと言う人では
無い――と思った。
仲間の中には、挨拶代わりにそんな事を言う人が居るけれど、
クロードはおそらく本気の本気なのだ。
と言う結論に達すると途端にフュリーは耳まで真っ赤になる。
どうしよう、今までそんな事を男性から言われた事もなく――
何時の間にか、レヴィン王子への気持ちの整理が付いて、今度は
クロードにどう答えるか、とそればかり考え込んで居る自分に気が付く
フュリーである。
フュリーだって分かっている、レヴィンへの想いはクロードの言う通り
不義なのだ、と。
でもクロード神父は独身だからもし付き合うとすれば
何の問題も無く行くだろう。
とその時トントンと軽くドアを叩く音が外から聞こえる。
「フュリー、居ますか?」
それはエーディンの声だ。
「は、はい。居ます。どうぞ」
立ち上がってドアを開けると、そこには
湯気の立つ紅茶と、スコーンを銀色のトレイに置いてそれをしっかり
持っているエーディンの姿だ。
「皆さん、向こうでパーティーの最中です。
でもフュリーの姿が見えないので体調でも優れないのでしょうか、と思って
心配して居ました。これは、差し入れです」
エーディンから、トレイを受け取りそれを部屋のテーブルの上に置く。
紅茶の香ばしい匂いが、暖かく部屋に広がり、フュリーはエーディンの気配りに
感謝するように微笑んだ。
「ありがとう、エーディン様。あの、後で良いので少し相談を
しても良いですか?話したい気分なのです」
「ええ、勿論です。会食が終わったら直ぐに
こちらのお部屋に来ますね?」
「お願いします」
本当は、式の後の会食にも参加すべきだが――とは思う物の
結局は顔を出さず仕舞いになってしまった。
トレイに置かれた紅茶を持ち上げ一口口にし、ほっと息を吐く。
美味しい――、エーディンが入れてくれる紅茶は
何時も美味しいのだ。
程よく温かいそれを時間をかけてゆっくりと飲む。
スコーンの方も、祝いの席用にシレジアの厨房を預かる者が
力を入れて作って居たと聞く。
紅茶を飲んだ後にスコーンを食べると、
口の中で優しい味が広がった。
それから、更に二時間が経ち、パーティーもお開きの頃合い。
エーディンが、修道女の服に着替えてこちらの
部屋へと来てくれた。
「エーディン様。わざわざありがとう、相談と言うのは――」
「はい」
フュリーは、言葉を選びながらレヴィン王子への想いと
クロード神父との会話の一部をエーディンに話すのである。
「そうですか、クロード様が……」
エーディンは椅子に深く腰掛け首を緩く傾げると
「フュリーの今の気持ちはどうなのです?」
「えっと、今は――。嬉しいのですがとても複雑な気持ちですね」
「それなら思い切ってクロード様にその気持ちを告げてみては?
嬉しいと言われれば悪い気がしないでしょうし――それに」
「それに、何でしょうか?」
「振られた恋を払しょくするには、新しい恋愛をする事です。
フュリーは私から見ても、申し分の無い素敵な女性ですから
クロード様との恋愛に生きても良いと思います」
「そ、そうですか。そんな事はありませんが――新しい恋愛。
そうですよね。分かりました。正直
どう返事をしたものか迷っていましたが……吹っ切れました。
エーディン様。ありがとう御座います」
エーディンは、ぱっと表情を明るくし大輪の花のように笑った。
フュリーも笑顔を浮かべて心の中で呟き。
私は、――エーディン様のように上品で知的で人の情を知る訳でも無い。
そしてシルヴィアのように明るく、人々を和ませる踊りで心を癒せる訳でも無い。
それでも――クロード神父は私を見てくれて居た。
だから、付き合ってみるだけなら良いですよね?と。
次の日、フュリーは礼拝堂に居たクロードに自分の心の内
を告げる。
「では、今日から私と貴女は友人以上、恋人未満――と言う事ですか」
「はい、いきなり恋人同士と言うのも気恥ずかしいので……
それでお願いします」
「ははは、友人同士ですら無かった私達が今の関係になったなら
そこには希望がありますよ」
「希望、ですか?」
「仲が進展して何時かは結婚も視野に――という事です」
「えっ」
フュリーは、吃驚して口を半開きにして驚いて居た。
「け、結婚はまだ考えて居ませんけれど――とりあえず。
今日はシレジア城の中庭に一緒に行きませんか?クロード様にお見せしたい物が
あるんです」
「おや、何でしょう?」
「こちらへ」
二人は連れ立って中庭に移動する。
そこには、寒さに負けず咲くクリスマスローズが、沢山植えられて居た。
丁度中庭の上には屋根が作られており、ここまで雪が吹き込む事は無い。
「奇麗で、たくましい花ですね」
クロード神父は、そう感想を告げる。そして隣に居るフュリーを
見ながら
「私にとっては、花よりフュリーさんの方が何倍も美しく見えていますが」
「えっ、嬉しいですがそれは、褒めすぎでは無いですか?」
「褒めているつもりは無くありのままを言ったまでですよ。
でも花の素晴らしさ、生命力にも一目置いているのです」
「そ、そうですか。はい、この花はクリスマスローズと呼ばれここに
植えられているのは特に耐寒性が優れるように交配された品種なんです」
フュリーが白とピンクの混じった花々をそっと指さす。
「クロード様のおっしゃる通り生命力溢れる
この花の強さを、見て貰いたかったんです」
「生命力、と言えば人間にもエーギルと言う生命エネルギーがありましてね。
この話は以前にしましたか?」
「ティルテュ様が確かクロード様から説明を受けた、と言っていましたね」
「シグルド様の軍の皆さんはエーギルの強さが桁違いに強いのです。
だから寒さの中の行軍でも、まるで勝手を知った渡り鳥のように迅速でしたね」
「ふふふ、雪国育ちのレヴィン様も驚いて居ましたね……あっ」
「どうかしましたか?」
「ごめんなさい、レヴィン様の事は過去の事。あまり言わない方が良いですよね?」
フュリーはすまなさそうにクロードに告げる。
「いや、名前を出すぐらいなら問題は無いのではありませんかね。
これからはレヴィン王子とは今まで通り主君と騎士と言う関係で良いと思いますよ。
それより今日ここにデートに誘ってくれた事、嬉しく思います。
フュリーさんから招いてくれて私は幸せ者ですよ」
「デート?確かにデートですね。ふふふ」
「はい、そうです。こうやって少しずつ、心を繋いで行くのですよ」
「心を繋ぐ、なるほど素敵な響きですね。クロード様は、
デートには慣れていらっしゃるのですか?」
「そうでも無いですね。ハハハ。貴女と
居るのは楽しいですがね」
和やかな会話を交わし寄り添うように花壇を散策する二人。
その様子を偶然、厨房から出て来たエーディンが遠くから見て居た。
(ふふ、上手く行っているみたいですね。応援していますよ)
密かに声援を送る。
それから一時間程、フュリーとクロードは楽しく語らい、花を満喫し
その光景は既に睦まじいカップルのように見えたかも知れず。
-END-
聖戦の系譜二次創作小説・「さよならの後に」Part1.
ファイアーエムブレム聖戦の系譜/SS
『さよならの後に』Part1.
シレジアの冬は長く、寒さが厳しい。
そして春は、はるか遠い。
雪が鬱蒼と降り積もる中でも、
一つのある明るい話題があった。
シグルド軍に所属する一組のカップルが
華やかな結婚式をシレジア城の中で
行ったのである。
シレジア王国の王子であるレヴィン。
そして新婦の踊り子シルヴィア。
明るい雰囲気の中で二人はきちんとした正装に身を包み、
仲間から祝福されて腕を組みながら赤い絨毯の上を歩いて行く。
外の寒さにも負けない温かい笑顔と、鳴りやまぬ拍手の中――
二人は誓いのキスを交わす。
その前方では祭壇に立ったクロード神父が、厳かに杖を掲げて
聖なる祈りをもって二人を祝って居た。
誰もが、幸せな顔をして取り囲んでいるかと
思いきや、一人内心に複雑な心境を
抱え少し浮かない表情を浮かべて佇んで居る女性が一人。
シレジア王家に仕える天馬騎士の一人、フュリーである。
フュリーは長い間、レヴィンを慕って居たのだ。
片思いかもしれなかったが、想い続けて諦めなかった。
なのに――。レヴィンは自分の手の届かぬ所に行ってしまった。
悲しいけれど、苦しいけれどこれは紛れも無い現実だ。
皆にばれぬように軽くため息を付くと、
水色のパーティードレスに身を包んだフュリーは
そっと一人、会場となった広間を
抜けて城のバルコニーへと歩いて行く。
止む事無く降って来るミゾレ状の雪が、首元へと
滑り落ちてきてその冷たさに
ぶるりと一つ震えた。
(シルヴィアの立つ位置に、――もし。私が立てて居たら)
この世にもしも、なんて無い。
だから私もレヴィン様とシルヴィアを心から祝福しなくてはいけない。
そんな事を考えていると、背後から誰かの気配がした。
ゆるり、と首をそちらに向け緑の瞳をこらすと
そこには長身の神父、クロードが。
少し眉を寄せて困った風な顔をしながら、
「フュリーさん。そんな所に居ると風邪を引きますよ?」
「お気遣い、ありがとう御座います。直ぐ戻りますので……」
「はい。暖かい部屋へと戻ってください。
それと何か悩み事がありそうな顔ですが、私で良ければお聞きしますが」
フュリーは、性格が真面目故に直ぐに顔に心の内が出てしまうのだ。
隠していたつもりでもどうやらクロードには、分かっていたようで。
「ありがとう御座います。
それでは懺悔と言う形でクロード様にだけ言いたいと思います。
移動しましょう」
フュリーとクロードが、祭壇のある部屋へと戻るとそこでは
既に式は終わり別室へと皆パーティーの食事を
食べに行ったようだ。
しん、と張りつめた厳かな空気、暖炉の薪の燃え残りが煙を上げている。
フュリーは少し逡巡すると、クロードに
「実は――レヴィン様の事で」
「はい」
「懺悔させてください。私はまだレヴィン様への
想いを心の中に隠しています」
「そう、でしたか――。貴女はずっとレヴィン王子を
支え密かに想い焦がれていた。
それで合っていますか?」
クロードが告げるとフュリーは、恥ずかしそうに
僅かに首を振り頷く。
「そしてレヴィン王子とシルヴィアさんが夫婦に
なった後もその想いを捨てきれず
それが罪だと分かっていても――レヴィン王子を
愛しているのですね?」
「は、はい……そうだ、と思います」
フュリーは、もやもやとやり切れぬ想いを抱えて
そしてそれを吹っ切れずに居た。
それでも、こうしてクロード神父に話す事で少し気が楽になったのか、
先程までの表情は幾分か和らいで居る。
「それでは私から提案なのですが――レヴィン王子への
愛を一度横に置いて
私と、一度付き合ってみませんか?」
「えっ……!?」
大きく目を見開きかなり驚いてフュリーはクロードを見上げた。
「付き合うってどう言う意味ですか……?まさか?」
「唐突に告げてしまってすみませんが、これが
一番良い解決策のような気がしまして。
正直に言います。私は以前からフュリーさんの誠実で
飾らない真っすぐな性格を好ましく
思っていたのです。どんな難局でも負けず、
仲間や主君を守る為に空を駆ける――そんな
貴女の姿を何時の間にか目で追うようになって居ました」
「クロード様、そんな――からかわないでください」
「私は冗談は言いません。もう一度言います。フュリーさんさえ良ければ
私と付き合ってくれませんか?」
「私が、まだレヴィン様への気持ちを断ち切れずに居るのを知ってその言葉ですか?
少し考えさせてください……」
「はい、待ってますよ。フュリーさん」
Part2へ続く