徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

風のフォルセティ(ファイアーエムブレム聖戦の系譜SS)

熱き炎の雨が降ってくる。
じり、じりとそれは頬を焦がした。
後頭部が焦げたように熱い。
心なしか手足の感覚がなくなるような錯覚さえ覚える。
レヴィンは、フォルセティの魔法書を前にかざしながら
懸命に前へと進んだ。
 
ここで死ぬ訳にはいかない。
俺にはやるべきことがある。
その一心で歩を進めていくと前から炎の魔道書を
前に突き出しながらこちらへ向かってくるマージの一団が見えた。
とどめを刺すつもりか!
炎と風では不利かもしれない。
まだそんなことを考える余裕を持ちながらもレヴィンは頬をゆがませ
フォルセティを唱えた。
 
 
バサッ、ゴウゥウーーーーー!
すさまじい轟音とともに神器の風が放たれる。
マージ達が吹き飛んでいくのが見え、同時にぐらりと
レヴィンの体が揺れた。近くに落ちた燃え盛る隕石の火の粉を
まともにくらって膝をついたのだ。どこか近くで味方の物らしき
絶叫が聞こえた。ゴオ、ゴオと視界が真っ赤な炎に包まれる。
 
ユラ、とそれは前兆も無く現れた。
レヴィンの前に現れたものは最初は霧のような朧な姿をしており、
徐々にその形を成していった。
それは、巨大な龍だった。
「レヴィン。起きるのだ。レヴィン。」
若い男の声が聞こえ、ハッと身を起こすとレヴィンはその龍の背に乗り
風のように戦場を後にしていた。
「聞こえるか。私の声が。我が名はフォルセティ。風を司る龍族なり。」
……!
身じろぎをして吃驚したように龍を見ると、レヴィンは笑い出した。
「ハハハ、ダーナ砦に光臨したという伝説の!?参ったな。俺は夢を見ているのか。」
「否、これは夢では無い。風の申し子レヴィン、お前に力を貸そう。」
フォルセティはおごそかな声で静かにそういうと優雅に空を飛翔した。
雲の中を飛び、そしてまばゆいばかりの光の下を翔る。
「俺に力を……か。ありがたいが伝承では龍族は人間に干渉してはならないんじゃないのか。」
そう問うとレヴィンは訝し気に首を傾げた。
ふわりと空中を漂う浮遊感に慣れぬのかしきりに姿勢を動かしながらフォルセティの次の言葉を待つ。
「そのためのゲッシュなのだ。私はお前を助ける。お前は私に記憶の全てを託す。全ては次世代を導くがゆえに」
力強く、そう告げる龍。
「お前は本来ならばあの場で死んでいた。既にお前は歴史からは居なくなった者なのだよ。
だからこそ、その記憶と体を私が譲り受ける。」
「この世に存在しない者と言う訳か。記憶を託したらどうなるんだ?」
「お前自身の記憶は残るが、それに関しては一切触れてはならぬ、と
約束して欲しい。
……家族もなかったことになる。それ以外の選択肢は無い。」
「そうか。じゃああんたに託す。」
さっぱりとした顔でレヴィンは風の魔道書フォルセティを前にかざすと頷いた。
最後のレヴィン本人の記憶は、愛する妻と子供達の温かく心に光が灯るような笑顔。
それはきらきらと眩く輝き、次の瞬間緩やかに飛散した。
 
~終わり~