徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

戦女神Part2(ファイアーエムブレム聖戦の系譜SS)

布で丁寧に体を拭き終わり着衣を戻すと

足は自然に闘技場の観客席へと向かっていた。
すがすがしい風が頬を撫で、場内に足を

踏み入れたその一瞬後には

熱気に包まれる。
観客席から眺める光景は、新鮮だった。
俺は闘技場に立ちはするが未だかつて観客席に足を

踏み入れた事は
無かった。今日はどういう風の吹き回しだろう。
おそらくあのブリギッドが
気になったのだ。

ぎっしりと人で埋まった場内には既に座る席も無い。
後ろの立ち見席で闘技場の中央を見た。
戦っているのは先ほどのブリギッド。
凛としたたたずまいで弓を構えている。
対戦するは魔法剣を持った女剣士だ。
魔法剣特有の魔力を発しながら赤く光る剣を振りかざし、
女剣士が攻撃に移る。
ぼわっ、という重い音とともに炎が発し、一直線にブリギッドの
元へ走っていく。危なげなくそれを避けた彼女はイチイバルに矢を
きりりと狙いを定めた。
途端に後光が差したかのように眩しくイチイバルが光る。
ぴんと張り詰めた空気の中、それは光の本流のように

女剣士の足元へ
吸い込まれていった。
その瞬間のブリギッドの姿は例えるなら、そう女神。
戦女神ヴァルキュリアのようだった。
思わず俺は

「女神…ヴァルキュリアのようだ…。」
と呟いてしまっていた。

「ホリンじゃないか。こんなところで観ているとは珍しいな。」
ふと振り向くと背後にはアイラが居た。
 試合を見るのによほど熱中していたらしく彼女の気配に全く気がつかなかった。
「アイラか。アーダンの試合は終わっていたのだな。」
「ああ、1回戦で負けてさ。早々と終わってしまったよ。ところで
先程ヴァルキュリアの名前を言っていたようだが?
イザークの戦女神を何故お前が知っている?」
先程の呟きは漏れていたようだ。
実はアイラと同郷なのだが俺はそれを知られたくなかった。
飛び出た家について聞かれるのもわずらわしいので
適当に誤魔化す事にする。


ヴァルキュリアはグランベル王国でも有名な女神の名前だからな。
俺が知っていても不思議ではないさ。
ブリギッドと言う女のことを指して言ったのだ。あの戦い方はまるで
天上の戦女神のように美しい。」
知らずの内に心の底から賛辞のため息が漏れた。
闘技場の方を窺うとすでに勝負がつき、傷ついた女剣士が

担架で運ばれて居る所だった。
ブリギッドは額の鉢巻を締め直し、イチイバルを担いで悠々と
闘技場を後ろにするのだった。
「ああ、彼女は強い。私達も負けては居られないな。」
こくりとアイラは頷き、同意をする。
俺はもう一度ブリギッドが去っていった方を見て、呟いた。
「戦場に降り立った美しき…戦女神ブリギッド。」

この日から俺は、彼女に特別な感情が芽生えた…らしい。
脳裏に聖弓イチイバルとそれを掲げる白き女神の姿が

鮮烈な印象と共に何時までも残っていた。

 =FIN=