徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

戦女神Part1(ファイアーエムブレム聖戦の系譜SS)

わあーっと辺りから物凄い歓声が聞こえる。
それは闘技場の中心に向かって投げかけられる
観衆の声だ。


「ホリン!ホリン!」


観客は狂ったように一人の男の名前を呼び、
拳を振りかざした。
「ふっ…。」
それに応えるように俺は大剣をかざし軽く手をあげた。

目の前には見上げる程の
上背の男が一人、同じく大剣を構えて立っている。
強さはそう大したことがないだろう。
だが、油断は禁物だ。俺は腹にぐっと力をこめると
一気に大剣を相手の懐にくぐらせた。
それを読んでいたかのように上体を逸らす男。
その隙をついて渾身の力をこめて即座に持ち上げた大剣を振り下ろす。


「あれは…なんだ!?体が光っているぞ!」
「出た!ホリンの秘剣だーーーっ」


(月光剣…)


青白く輝く刃が深く相手の鎧を割りどうっと大男は倒れた。
勝負は一瞬だった。

暫しの沈黙の後、観客がどっとどよめいた。
この熱気は何時も俺が感じる懐かしい物だ。
俺は闘技場に戻ってきた。
かつて無敗の王と呼ばれ讃えられてきたこの戦場に。
対戦相手は敗北を悟り顔から血の気を無くしながら
降参の合図をした。
俺はくるりと踵を返すと闘技場から立ち去る。
歓声は未だ、鳴り止まなかった。

控え室に入ると重騎士アーダンが真っ先に声を
かけてきた。
「ホリン!流石元闘技場の勇者だっただけあるな。
すごい腕前だ。次は俺の番だから良かったら試合を見てくれよ!」


はっはっは、と軽く笑いながらぽんと気さくに肩に手を置いて来る。
その隣ではアーダンの妻アイラが長剣を腰にこちらを見ている。
ふと視線の先、部屋の奥に見知らぬ人影が一つあった。
顔を合わせた事が無い金髪の女だった。
かなりの美人だ。軽そうな黄緑色のチュニックを着て胸の前で腕を
組んでいる。

そして何よりも目を引くのがその手に持った弓だった。
光り輝くような錯覚さえ覚えるその弓は俺の記憶が正しければ
そう、神々の武器。イチイバル。

もっとも図案入りの書物の中でしか知らないが。
俺の目はその弓に釘付けになった。

「どうしたんだ?そんなにじろじろ見てさ、

あたしに喧嘩でも売ってるのかい?」
金髪の女が口を開くとハスキーな声が辺りに響いた。
人に命令し慣れている、そんな凄みを伴った声だ。


「いや、その弓が気になってな。」


俺はやや口ごもりつつ答えた。
神々の武器。俺が扱えなかった神剣バルムンクを思い出させる。
俺はオードの血筋に生まれながら聖痕が出なかったという理由で
バルムンクに選ばれなかった。憧れはしたが手の届かなかった神々の武器。
俺は絶望し、家を出て流離い(さすらい)の剣闘士になった。
苦い思い出がふっと胸中をよぎる。
そんな表情を怪訝に思ったのか女はこちらをじろりと見た。
「そんなに弓が気になるかい?これは神々に選ばれし者の証だと
妹から聞いたんだけれどね。」
イチイバルを見やる女の姿に俺は無言で
そこに立っていた。
「まあ、あんたも同じ軍の奴なんだろ?あたしはブリギッド。
スナイパーをやっている。そして元海賊だ。宜しく頼むよ。」


軽く手をあげてその女、ブリギッドは挨拶をした。


「俺はホリン。シグルドの世話になっている剣士だ。こちらこそ宜しく頼む。」
低く、静かに挨拶を交わす。
控え室はアーダンとアイラが出て行った後なので静かだった。
暫しの静寂が辺りを包む。


「ここに居るということはあんたも闘技場に出るのだな。」
「勿論さ。なんなら見に来るかい?」
「ああ、気が向けばな。」


俺は戦いで流した汗を流すべく控え室の外の井戸へ向かった。
着衣は汗でぐっしょりだった。

 

◆Part2へ続く◆