徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

ベルウィックサーガ・7週目ミニ小説・第四章「撤退援護」~another side~

ドラゴンの背中に乗り空を駆ける為には
まず風を読まなくてはならぬ。

今日は、帝国の大草原の空中で竜騎士達による
模擬試合が行われていた。
ルールは一対一での決闘だ。
東の空域には小柄なドラゴンに乗り青い髪を
風に吹かれるままに流し、実直そうな
瞳で前を見つめる女性竜騎士
ラレンティアが。
対する西には、黒い甲冑に身を包み黒きドラゴンに乗った
大柄な男…ラレンティアの上司であるゼフロス将軍が
槍を構えて滑空していた。
あらかじめ、地上で打ち合わせをしており
お互いの技量でもって相手に降参させたら勝ち、と言う
至極単純な試合である。
だが武器を持っている以上相手を
傷つける事もある、と言う事も
考慮に入れなければならず
気は一切抜けない。
ラレンティアは、戦場でのゼフロスの卓越した戦闘技能を
知っていたからこそ、今回の模擬試合には全力で臨もうと
緊張していた。
ピィーーーーーっと地上で試合開始の笛が鳴る。
先に動いたのはゼフロスの方だ。
バサバサ、と黒き愛竜の翼がはためきゼフロスは高度を取る。
高い位置からの攻撃は、攻撃側に有利となるからだ。
だが、高い場所には乱気流が発生している事もあり
その風に飲み込まれれば上手く竜が飛ば無いこともある。
その見極めは難しいが、ある程度の距離まで
昇れば後は背後を取られないように気をつけながら
上手く竜を操るのみである。
ラレンティアも、ゼフロスの竜に釣られるようにして
上昇して行く。
とその時、先に上昇していたゼフロスが槍を斜めに持ち
ラレンティアの方へと急降下する。
ドラゴンの降下するスピードとも相まって
その槍の威力は数倍にも高まっている。
まともに受けては命が、危ない。
とっさにラレンティアは、左手に持っていた
バックラーを前に突き出し
己とすれ違うようにして交差したゼフロスの
強烈な一撃をバックラーで受ける。
ガィィィン、と金属の鳴る音が響き渡り
盾の一部が欠けたのが分かった。
それでも、ラレンティアは己の背後へと
飛び去ったゼフロスと竜の
方へと方向転換しようとした刹那、
既にゼフロスは悠々と旋回して、方向を変え…ラレンティアの
背後を取っていた。
ラレンティアが、ゼフロスの方を向いた時、
丁度ぴたりと鼻先に槍が突きつけられる。
 
「お前はまだまだ未熟だ。精進しろ。」
 
低く、よく通る声がそう言いさっと槍を下ろして
ゼフロスの竜が地上へと降りていく。
それに倣ってラレンティアも己の竜を操り地上へと戻る。
地上では、ゼフロスの副官アクトゥルが待っていて
竜から降りた2人の方へと駆け寄ってきた。
 
「2人ともお疲れ様です。これを。」
 
と、アクトゥルは両手に持った果実を用いて作られた
飲み物を2人に渡すだろう。
それを手に、ラレンティアは緊張の余りにカラカラになった
喉を潤す。
柑橘系の酸っぱい香りの液体が喉の奥へと
流れ込み、疲労も僅かだが回復していくようだ。
アクトゥルの気遣いに感謝しつつ、
ゼフロスにも声を駆ける。
 
「ゼフロス様、お見事です。次はゼフロス様とアクトゥル副官の
試合ですね?」
「ああ、そうだ。今から楽しみだな。アクトゥル。」
「ははは。手加減はしませんよ。」
 
そう言ってアクトゥルは温厚そう
な顔に微笑みを浮かべた。
ラレンティアにとって、帝国に居た頃の
楽しい記憶と言えば丁度この辺の時期の事を
指す事だろう。
先日、ゼフロス将軍からナルヴィアに亡命するよう、
命令された時は己の耳を疑ったが
ゼフロスは真剣そのもの、と言った
表情で驚くラレンティアにこう諭すのだった。
 
「お前の心は今でもヴェリア女神の元にあるのだろう?
お前は、お前の道を行け。その美しい心根を忘れず
己の信じる道を貫けよ。」
 
今は帝国に属しているが、ラレンティアは
元はペシル国の竜騎士だ。
ペシルは帝国の侵攻を前に降伏し
今は竜騎士隊は帝国の指揮の下で動くよう、
ラーズの教えにも従うよう指示されている。
 
そんなある日、ラレンティアは信じられない物を
見た。
ヴェリアのとある辺境の村を襲った部隊が
老人と子供を全て焼き殺したのだ。
しかもそれを
行ったのは自分の元上司であり同胞の竜騎士だった。
そして若い女は全て、奴隷としてラーズ教団に
引き渡され…その後の彼女らへの処遇は
言葉にも出来ない程酷い物だろうとの
想像は出来た。
ラレンティアは、その所業に怒りを覚え
ラーズの司祭に直に抗議に行った。
だが結果はさんさんたる物で
こちらの話をまともに聞いてくれる事は無く
むしろ反逆の罪で拘束されそうにもなった。
すごすごと戻ってきたラレンティアの目の前に居た
のは村人を焼き殺した後の上司だ。
 
「貴方とて、昔はペシルの誇り高き竜騎士だった。
それがラーズに飼われて…魂まで腐ったか!!!」
 
ラレンティアは、己の腰の剣を抜くと上司の首に突きつけ
そう言い放った。
それで、1ヶ月の独房入りを言い渡されたのだが
今はゼフロス将軍の隊に移り、ひとまずの安息を得ていた。

そして1年程過ぎただろうか。
ゼフロスに命じられるがままに亡命の準備を済ませ
愛竜を駆る。
次の作戦では、同盟軍の敗残兵狩りと言う事で
ひとまずラウロス将軍の部隊に転属となった。
ラウロスへはゼフロスから内密の形で話は付けてあり
後は同盟軍と接触するのみだ。
ばさり、ばさりとドラゴンの羽ばたく
音がやけに大きく聞こえる。
地上では、同盟軍と帝国軍の剣を交える音が聞こえ
また酷く短い何者かの断末魔の声も聞こえた。
 
(あれは…敗残の兵を助けようとしている…
おそらくあの人が同盟軍の大将ね。)
 
金髪の少年が、突剣と呼ばれる細く長い剣を手に
してそれを前にまっすぐ突き出す。
鎧の隙間にうまく剣が入り、帝国兵がぐらりと
体を揺らがせた。
その隙をついてもう一撃…
今度は急所である首元を狙う。

どう、と帝国兵が地面に倒れる音がして
その次の瞬間、少年がこちらを見たのが分かった。
少し驚いたような、マズイな…とでもいう風に
端正な顔を僅かに歪めた少年は
後方に控えていた部下を呼ぶと
弓兵と魔導師にこちらに来るように伝える。
空を飛行する竜騎士には弓や魔法でないと
攻撃が出来ないからだ。
 
「待ってください、私は敵ではありません。」
 
そう言い、ラレンティアは攻撃をする意思が無いことを
示すために槍と盾を外しゆっくりと金髪の少年の前へと
ドラゴンで降りていった。
 
これが、リースの側にこの竜騎士ありと
後のサーガに謳われた2人の邂逅であった。
その後、ラレンティアはヘルマンの手により
長い間、狭き牢獄に入れられる事となるが…
その瞳は曇らず、まっすぐに己の仕えるべき者
リースを信じていたと言う。
 
~終~