徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

ベルウィックサーガ・7週目ミニ小説・第三章「司祭3人」~another side~

ラーズ司祭フェルマーは、

薄暗い洞窟の中で
熱心に祈りを捧げていた。
この狭い場所で、他にも十数名もの

ならず者風貌が揃いも揃って
頭を垂れている。
頬に傷持つ者。体に刺青をしている大柄な男等で構成された
彼らはデミアス山賊団と呼ばれ界隈の人から恐れられていた。
しかし今では熱心に何やら祈りの文句を唱え
フェルマーを前にして大人しく座り込んでいた。
妙に神妙なその姿を見て

フェルマーはやれやれ、と首をすくめる。

 

(ラーズ教にとって偶像崇拝は一般的ではないのだが、
まぁこいつら盗賊にとっては分かりやすい

シンボルが無いといけませんかねぇ。)

 

 

洞窟の一番奥には簡素な祭壇が置かれその上には
ラーズ神の姿をかたどった木像が置かれている。
その上、何やら怪しい蛇の皮やら煙の
ような匂いのする若木が
捧げられており怪しい事この上無い。
それでも、盗賊達はまるで憑かれたかの
ような目つきをして
ラーズ像に手を合わせているのだった。

 

デミアスの森と言えば、ヴェリアの巫女が
住むと言われる神殿のある
聖地である。
そこに、数年前から凶暴な山賊団が巣食う
ようになった。
それに目をつけたラーズの一司教フェルマー
巫女をかどわかし聖地を破壊するための布石として
まずはそこに生息する村人から山賊団にまで
幅広く布教を始めたのだった。
最初はさり気なく、徐々に大胆に。

効果はてきめんだった。
ラーズ帝国の教えでは、巫女はヴェリアの
魔女と呼ばれ
悪の親玉のような扱いに変わっている。
もし神殿の関係者が、外に出てこよう物なら
改宗した山賊団に袋叩きにされてしまう事だろう。

 

 

(それにしても憎いのはあの女…!シャインナイト
の生き残りですねぇ。)

 

忌々しそうに顔を歪めてフェルマー
ある女の顔を思い浮かべる。

盗賊達の報告によると、巫女の神殿には
ヴェリアのシスターの他に剣技に長ける
黒髪の女が一人居ると言う。
その剣の腕前や凄まじく
ラーズの司祭達が近づくのを尽く(ことごとく)
阻止していた。
フェルマーも数度そのシャインナイトに遭遇している。
何故シャインナイトだと分かったかというと
相手がそう名乗ったからだ。
名前までは知らぬが、その内酷い目に合わせてやろう、
一泡吹かせてやろうと作戦を練るフェルマーだった。

 

そこへ、一人の傭兵風の男が伝言を告げにくる。
青い髪と険しい目つきをしたその男は
フェルマーに短く伝えるだろう。

 

「もうすぐカオス様がお見えになります。」
「分かった。下がれ。」

 

フェルマーは、盗賊達に別れを告げていそいそと
神殿の近くにある館への道を急ぐ。
この館は、元はヴェリア貴族の別荘だったらしいが
人が去った今ではラーズ司祭達の隠れ家となっていた。
小奇麗に整えられた庭を抜け、館の一室へと
滑り込む。
中では黒衣の男が居た。
名をカオス。
フェルマーにとっては上司にも当たる人物である。

 

 

フェルマー、首尾はどうか?」
「順調に御座いますれば。」

 

頭を下げて、そう答えるフェルマー
カオスは一つ頷いてみせる。


「それならば良かろう。
聞けばアルマキスもここに来るそうだな?」

 

カオスは、黒いローブに覆われた
顔に深く影を落としくぐもった声

でそう尋ねる。

 

「はっ、何でも視察に訪れるとかで…
ボルニアから遥々…」
「そうか、遠方からわざわざな…。
わしはアルマキスは好かぬ。
応対は貴様に任せる。」

「はっ。」

 

深々と頭を下げフェルマーは内心
深くため息を付いた。
高圧的なカオス卿も、
我が道を行く司教アルマキスも
正直フェルマーにとっては苦手な上司だった。
出来ることなら任務以外で

関わりたくないというのが
本音だったがこうして板挟みに

なってしまっては
何処も逃げ場は無い。
中間的な立場に立たされるのも辛いものである。
フェルマーは、アルマキスが訪れるであろう時刻まで
館で滞在する事になる。

 

 

一方ボルニア国では、
ヴェスター公子が怒りの声をあげていた。

 

「親父に…会わせろ!!」

 

豪華な装飾で縁どられた厚いドアの前で
拳を振り上げて
口をへの字に曲げて何やら不機嫌そうである。
全ては宮廷司祭アルマキスがやってきてから
事態はおかしくなっていた。
突然の父の方針にヴェスターは
納得が行くはずもなく一度こうして
面と向かって会わせろと嘆願しているのだが
数ヶ月前から一度たりとも
父本人に会ってはいない。


『同盟国たるナルヴィアを裏切り攻め込む』


長年穏健派と知られてきたボルニア大公の掲げた
方針にヴェスターだけではなく
民の間では不平不満の声があがっていたが
無論彼らに逆らう術は無い。
来月にも、ナルヴィアに攻め込もうと
軍隊が編成されていた。
ナルヴィアとボルニアは長きの平和によって
確固たる友好が築かれて居た為に
両国の国境には砦等の防御施設は一切無い。
攻めるのはひどく容易いのである。
後は如何にして不意打ちするか。
ナルヴィアに気がつかれず兵を国境付近へと
送り込むか…
それだけである。

ボルニアの現在の内情はと言うと簡潔に言うと
ボルニア大公リードは
アルマキスの術にはまり正気を失っていた。
暗黒魔法によって意のままに操られる生ける廃人と
なったリードはベッドの上で虚ろな瞳をして
座っている。
時折、食事を持ってくる使用人も
身の回りの世話をするメイドも
全てラーズの司祭の息のかかったものであり
今のこの状況を不思議だと思う者は居ない。
リードの実の息子であるヴェスターを除いては、だ。

 

どんどん、とドアを乱暴に叩くも
屈強な衛兵にさえぎられて
父の私室へと入る事は叶わなかった。
伝えられる父からの命令と言えば
「来月までに兵を整え、予定通りナルヴィアへと
出兵せよ」の
一点張りである。

 

(親父はアルマキスに騙されているのだ…
あいつは好かん。宮廷魔術師などと偽っているが
俺には奴の怪しさが分かる。もしかして奴はラーズの…!)

 

そこまで思考した時、廊下の向こうから
女聖騎士アルヴィナが歩いてくるのが見えた。

 

「ヴェスター様。」
「アルヴィナ、どうしたこんな所で。」

 

「申し訳ありません。ヴェスター様。
何びとたりとも部屋に入れるなとの大公のご命令です。」

 

そして腰に下げていた剣を抜き

白刃をヴェスターへと向ける。
愕然とした表情でヴェスターはその様を見る。

 

「それは親父では無くおそらく

アルマキスの命令だろう?
アルヴィナ、聡明なお前なら奴の
胡散臭さに気がついて居るはず…!?」

「命令書には
確かに公爵閣下の署名がしてありました。
紛う事なき、我らが主からの命です。」

 

(融通が効かない女だな。)

 

とヴェスターは内心煩わしく思ったが
流石にこれ以上事を荒立てては
父への謀反罪に問われかねない。
そうなれば、もう真相を確かめようとする気概ある者は
ボルニア兵の中には居ないだろう。
正しくアルマキスの思うツボだ。

 

「分かった、今日のところは引き下がる。」
「分かって頂けましたか。」

 

剣を元の鞘に収め、ほっとした表情になる
アルヴィナ。

 

刻一刻と迫るボルニア崩壊の序曲…
ヴェスターはその音を聞きながらも
何も出来ぬ自分の無力さに歯を

噛み締めるのであった。

そしてそんな主君の姿を側で見ているアルヴィナの瞳にも
一抹の悲しさのような物が存在していた。
だがその想いが届くのは随分と先の話となる。


~~~終~~~