徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

ベルウィックサーガ・7週目ミニ小説・第十章「女聖騎士」~another side~


「ムリン、ダンファー。良く来てくれました。」


女性特有の柔らかな声の響きでもって
アルヴィナは2人を執務室へと迎え入れた。
ここはルーアン城の一室、窓から一望出来る
景色は城の周囲を取り囲む高い崖と小さいが
美しい城下町。
窓の景色を見ていたアルヴィナは振り返ると
重い鎧と兜に身を包んだ2人の青年の方へと視線を
向けた。
2人の青年はそっくりの年恰好、そして
兜の下の顔はと言うと全くの瓜二つ。
所謂「双子」と言うやつである。

 

 

「アルヴィナ様、お話と言うのは。」

 

ムリンの方が口を開き問う。

 

「貴方達に今回城の守備を頼みたいのですが
一番重要なルーズの橋の前に陣取ってもらいたいのです。」


そう言うアルヴィナの顔は少し曇っていた。
だが、それを気取られまいと顔をまっすぐに上げていたので
ムリンとダンファーがその事に関して
疑問に思う事はなかった。

 

 

「仰せのままに。我ら2人が居れば同盟軍等
一人も通しません。」
「お任せを。」

 

 

ほぼ同時にそう言ったムリン達は、若者特有の明るさ、覇気
でもって任務を実直に受け取る決意を見せた。
アルヴィナの顔が曇っていたのは、
この若者達の事を良く知るからである。
確か、この若者は自分が聖騎士の称号を得る3年前に
ボルニアの兵士として徴兵された筈。
同じボルニア兵として肩を並べ、
訓練に明け暮れた日々。
自分よりも年若い2人は、アルヴィナの事を良き上司として
慕いまたアルヴィナも2人の事は弟のように
大事に思っていた。


今回2人を送り出す先は城下町へと続く大きな
城門から数百メートル先にある細い川を隔てた橋の入り口である。
アルヴィナが懸念しているのは、
そこは何処よりもまっさきに戦場になるという事。
2人の力を過小評価している訳では無いが、
そこを突破する為に同盟の兵士は全力で打ちかかってくるだろう。
それこそ大勢で死に物狂いに。

 

コンコンとノックの音。アルヴィナが入るようにと言えば
ガチャリ、とドアが開いて今度は肩に弓を携えた長身の男が
入ってくる。

 

「ヤーロン、ムリンとダンファーを守ってあげて欲しいのです。」

 

弓兵と思われるその男ヤーロンは心得たとばかりに
口元を緩く釣り上げるときっちりと踵を揃えて一礼した。
それからアルヴィナはヤーロンにも今回の戦闘配備と
作戦等を告げ、ひと時の作戦会議が終わるとムリン、ダンファー、
ヤーロンは己の部屋へと戻っていく。

 

アルヴィナは一つ息を付き、隣の部屋へと移動する。
そこでは
老兵バーナードが待っていた。
直属の部下である
バーナードは何時同盟軍が攻めてきても
動けるように重鎧と鉄兜、武器の携帯等をきちんとしていた。
そしてガチャガチャと金属の擦れ合う
音を鳴らしながらテーブルの方へと歩むとそこに用意してあった
冷たい水の入った水差しとグラスを手に取る。
そしてそれを丁寧な物腰でアルヴィナに差し出すだろう。

 

「お疲れ様です。アルヴィナ様。」
「…有難う、バーナード。水は自分で注ぎます。」

 

バーナードの手から、水さしとグラスを受け取り
立ったままそれを注いで行く。
清涼な水がこぽこぽとグラスを満たし…
窓から入る日差しを受けてグラスが光る。
それを眩しそうに見つめた後アルヴィナは
グラスを傾けて水で喉を潤す。

 

…今回の作戦は本当に上手くいくのだろうか?
何か、嫌な予感がしてならない。
アナグマ作戦と呼ばれる今回のそれは
少数精鋭であるボルニア兵の特色を生かした物だ。
即ちアナグマのようにしっかりと自分の陣地を守り
堅牢な城の施設を最大限に生かして
守りきる…今まではそれで切り抜けてきた。
アルヴィナはテーブルの上にグラスと水差しを
戻すと頭を軽く振るようにして
嫌な予感を振り払うのだった。

 

 

一方その頃、リース達シノン騎士団は
ナルヴィアから
ルーアンへ向けて出立した所だった。
ルーアンへの道のりは
夜通し馬を走らせてもかなり時間のかかる場所だ。
しかも今回はヴェスター軍と連携を取りつつ
かつ正面の敵兵の囮となり守備を潜り抜け
軍を進めると言ういまだかつて無い困難な作戦だ。
馬上の人となった槍騎士レオンは、
はぁ…と軽くため息を吐き
隣のアデルに訝しげな顔で見られては
しゃっきりと背筋を伸ばす、という事を
繰り返し続けていた。
レオンの今回の任務と言えば
城下町の制圧の他に
ナルヴィアの町に住む老婆から
頼まれた仕事まである。

 

 

(全く使いっ走りもいい加減にしてくれよ。
こちらは戦争やってるんだぞ。)

 

 

心の中でそう思うも基本的に人の良いレオンは
老婆の頼みを断る事も出来ずに
居たのだ。

 

人の思いは様々、シノン騎士団も
ボルニアの兵士達やアルヴィナもそれぞれの思いを
抱えながら、じりじりとその『時』を待っていた。
その時とは即ち、両者がぶつかり合う時だ。
守りに徹し、アナグマの様に身を縮め
じっと城壁の中で城を守備するボルニア兵に
果たして打ち勝つ事が出来るだろうか?
リースは、今までに無く困難な闘いを予想しながらも、
戦い続ける事が運命づけられた己の生を呪う事は無い。


馬の歩を緩やかな物にしていきながら
すぐ斜め後ろを馬で走っていたウォードに告げる。

 

「暫し馬を休ませよう。」


ウォードは心得た、と伝令役の騎士にその事を話すと
後続の馬の歩調を緩やかな物になり、そして
騎士団全体がぴたりと止まった。
もう長い距離を走ってきたのだ、馬の息も上がっている。
街道の近くに川があるのを確認すれば
そちらへと移動するように指示し
馬に水を飲ませる。
戦いの前の静けさ、ともいうべき憩いのひと時。
この一時は、重要な時間でもある。
さあ、昼からは忙しくなる。
それこそ息を付く暇もないほどの過密な
スケジュールの中で動かなくてはならない。
騎士たる者、体力と気力は十分に備えているが
シノン騎士団の中には従軍シスターや盗賊と言った
体力が少なく非力な者も含まれてる。
その者達の事を気遣いながらも、きっちりと
ヴェスターと打ち合わせた時刻に遅れることなく
ルーアン城を攻める事になっている。
時間は、刻一刻と秒針を規則正しく刻み
容赦無く時は過ぎ行く…。
再び馬上の人となったリース達は
一路、ルーアンへの道を駆けるのであった。

 


~~~終~~~