徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

ベルウィックサーガ・7週目ミニ小説・第二章「山賊討伐」~another side~

「だから、ソフィーは…!」
「お前には…無い事だ。」
「でも…!……!」
「……!黙れ!それ以上…」
 
 
ここは、ラーズ帝国の名門貴族ハルス家の豪邸の
一室。
中から男と女の激しい
口論が聞こえる。
男はハルス家の当主にして豪弓パスカニオンの
開発を指揮している名うての
切れ者、ハシュー・ハルス。
女の方はハシューの実の娘のルーヴェル・ハルスである。
ルーヴェルは、父の腹黒い企みに一早く気がつき
それを阻止せんと直談判に訪れた。
だが結果は一蹴された上に頬を殴られ
すごすごと部屋から引き下がるのみである。
その恐ろしい企みとは…
遺産目当てにハシューの姪に当たるソフィーを
亡き者にすると言うものである。
 
(父がそんな人間だったなんて…!)
 
ルーヴェルは、殴られた頬を冷やすべく
メイドを呼んでタオルと水を張った
洗面器を持ってくるように
指示した。
未だに信じられないが、両親を失ったソフィーを
ハシューが養女に迎えたのも全ては計画の内だったのだ。

水にタオルを浸して、固く絞り腫れた頬に
当てる。
冷たい感触で頬の痛みが遠のいて行き
気持ちがいい。
暫くそうしていると、コンコンと軽くノックの音がして
次にソフィーの声が聞こえた。

「お姉様、この前お借りした本を返しに…」
「ソフィー?今は…入ってはダメよ。
後にしてね。」
 
殴られた顔を見られたくないばかりに
ソフィーを遠ざける。
この時のルーヴェルはソフィーの優しい従姉であり、
後に演技として行う高慢さは微塵も無かった。
ソフィーとルーヴェルは本当の姉妹のように
仲睦まじく、また互いを想い合って支えあって
生きてきたのだ。

だが、ルーヴェルはこの日を境に
鬼となる決意をする。
ソフィーに辛い仕打ちをする事でこの家、ハルス邸から
出て行ってくれれば…との魂胆があった。
優しいソフィーの事だからハシューが自分を謀殺しようと
しているのを知ればどんなに
悲しみ自分を責める事だろう…と。
またルーヴェルは、ソフィーをパスカニオンの
実験兵として前線に送り出す事に躍起になる。
父から少しでも目の離れた所に居れば
殺される事もなかろう、と。
そしてソフィーには気が
つかれないように密偵を
付けていた。
食事に毒でも入ってないか、他の
方法で殺されはしまいかと
内心父の策略を阻止すべく心を砕いていた反面、
表ではソフィーをメイドの娘と罵り
酷い言葉の数々を投げかけていた。

そんなある日。
 
「ソフィー!聞いてるの?今回特別に貴女にパスカニオンを
使わせるのよ。とろとろしないで早く支度して頂戴。」
 
ソフィーの方をじろりと厳しい目つきで見る。
 
「はい、ルーヴェル様。でも着ていく服が…。」
「そんなのその辺のボロでいいじゃないの。貴女には
ボロ服がお似合いでしょう?早くしないと裸で出撃させるわよ。」
「…!?」
 
 
ヴェリア王国と同じく、ラーズ帝国にも
山賊の住処は多々あった。
戦争によって食い詰めた村人が山賊になり、村や街を襲う。
略奪、誘拐等が横行しそれはヴェリアの民と
同じようにラーズの人々の悩みの種だった。
年々悪質になっていくそれは、人々の生活を脅かし
そして今回ルーヴェル率いる
ハルス騎士団にも討伐の命令が降りた。
非公認だが、ソフィーも連れて行くつもりだ。
 
 
数十名の精鋭からなるハルス家の騎士団を構成する
のは、主に弓騎兵だ。
ルーヴェル自身も指揮官として、士官学校で学んだ
弓の腕がある。
だが悔しいかな、何故かソフィーの弓の
腕には遠く及ばないと言う事実に気がついた。
ならば、駒として上手く使えばいいとばかりに
命令をくだし
山賊の住処である山の麓に馬を走らせる。
 
「この上よ。」
 
 
そこで一斉に馬を降り、今度は徒歩で
山の中腹を目指す。
時刻は夕刻。夕食時ともあってか山賊は
油断しているはず…
なるべく気がつかれず先手でもって攻める、
とそういう作戦である。
だが、山賊の方も警戒して見張りを立てていたために
中腹に到達する前に気がつかれてしまったようだ。
松明を持った山賊風貌が、得物の斧を手にこちらへと
向かってくる。
 
「ソフィー、前に出なさい。パスカニオンを撃つのよ。」
 
さっと軽く右手を上に振り上げ号令を出す。
騎士団の前へと素早く進み出た
ソフィーは、パスカニオンを構え
狙いを定めて山賊の足元に矢を放つ。
 
「…!?」
 
轟音が響き、魔力の篭った矢が炎の気を纏い
山賊の足元の地面へと突き刺さった。
怯む山賊だが、尚も斧を振り上げ
足を止めないのを見ると
威嚇はなっていない様子だ。
 
「甘いわね。眉間を狙いなさい。仕留めるのよ。」
「でも…。」
 
分かっていた。
優しい心の持ち主であるソフィーに
人殺しが出来る筈がないという事を。
だが、それでも。
これから経験するであろう実戦を前に
そんな生易しい理屈は通用しない。
 
「眉間を撃つのよ。」
 
ルーヴェルの、命令に背ける筈がない事も
知っていたからこそ、あえて辛く厳しい言葉を
投げ掛ける。
ソフィーは、目に涙を浮かべ
矢を放った。
 
 
ゴオオオオォォォン!!!
 
 
轟音と共に眉間を的確に射抜かれた
山賊は、炎に包まれ黒い炭の柱となり崩れ落ちる。
その山賊の背後から、
こちらへと押し寄せて来ようとしていた
他の山賊はそれを見て慌てて方向転換すると
四散して逃げてしまった。
元々は烏合の衆であるから、
相手に強力な武器があると見て取り
形勢不利と知るや
逃走するのは当然の成り行きである。
 
 
住処に残る山賊を掃討するべく、鎧と兜に身を包んだ
騎士達はボウガンを構えて
雪崩れ込む。
制圧にはさほど時間はかからなかった。
訓練された騎士達と、山賊とでは
戦力に差がありすぎた。
結局、パスカニオンを撃つ機会は数度しか無かったが
それでも実戦テストとしてのデータが
取れたのだから御の字であろう。
このパスカニオンは、時々暴発をすると言う厄介な
欠点を抱えていたが今回は運良く…
それには至らなかった。
 
 
ルーヴェルは松明を持った右手で
山賊達の住処に火を付けて
行く。
住処が残っている限り、山賊はまた集まってくるはずなのだ。
だからこうして後腐れなく、
炎で全てを焼き尽くす。
 
「……。」

お疲れ様、の一言も無くルーヴェルとソフィーは並んで
バチバチと爆ぜる火の粉を眺めていた。
ソフィーは、パスカニオンを握った手を震わせて
無言で立ち尽くしている。
居並ぶ騎士達もルーヴェルに従って、
その場で待機し重い兜を脱ぎ去り佇んでいた。
 
 
こうして山賊討伐は成った。
だが、山賊は、また再び善良な民を脅かす事だろう。
イタチごっことも呼べる負の連鎖だが
今日こうして住処を一つ潰す事が出来た事によって
山賊の凶刃に倒れる者が一人でも減るのならば…。
良しとしよう。とルーヴェルは自分を納得させる。

そしてソフィーの方へと気がつかれぬように
視線を送るのだった。
その瞳は労わるような優しさを秘め、
ルーヴェルの本心を表していた。
だが、ソフィーはそれには気づくこともなく……。
 
~~終~~