徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

ベルウィックサーガ・7週目ミニ小説・第十五章「英雄伝説」~another side完結編~

ダムサル砦の守りは非常に堅く、また思わぬ敵兵の出現で
リース達の部隊は混乱していた。
思わぬ敵兵……即ち操られたリネットの強力な

魔法攻撃でリースは瀕死とも呼べる深手を
負ってしまう。だが、それでも数多くの周囲の者の助けにより
何とかピアスとゴルドヴァを倒し
リネットを無事取り戻すのであった。

軽々とその腕に弱ったリネットを横抱きにして
前へ前へと真っ直ぐに
歩んでいるリース。
やがては制圧済みのダムサル砦の中へと入って行き
腕の中のリネットを心配そうに見やる。
そこへ駆け寄るのはリネットを説得したサフィアだ。
黄金に輝く髪色と、幼さの残る少女風貌、白い清らかな

ローブに身を包んだサフィアは心配そうな
面持ちで神聖な輝きを放つ白きオーブを手に持ち
それをリネットとリースに翳すのだった。

 

「リース様も酷いお怪我……リネット様はわたくしに任せて
お休みください。」
「ああ、気遣い有難う。サフィア。だが私はリネットが心配なんだ。
……ピアスの元で酷い拷問を受けたと聞く。だから。」

 

再び目を閉じているリネットの方へ気遣う視線を遣るリース。
そしてそんなリースを更に気遣うような慈愛の眼差しで見るサフィア。
すれ違う想いは暫しの時間を過ぎさせ、それは疲労から

リースが椅子に座るまで
続くのだ。

 

そこへ先程ダムサル砦攻略に尽力、活躍してくれた2人の男が
遠慮がちにやって来る。
ヴェスターとバンミリオンだ。

「リース公子、義妹(いもうと)君は治療班に任せて
己の体を休めるといい。酷い怪我だ。ほら、巫女様も酷く顔が蒼白だぞ。
巫女様のお心すら煩わせるのか?」

 

ヴェスターのはきはきとした声が部屋一杯に広がる。
バンミリオンも負けじとリースに休みを取るように促し
そして部屋の外に待たせていたパラミティースとその部下のシスター達を
招き入れ女性陣で協力してリネットをベッドへと寝かせるのである。
ぐったりとして、目を開けないリネットがベッドへと無事横たわると
ヴェスターとバンミリオンは半ばリースの背中を押すようにして
退出させた。

 

部屋から出たリースは、安堵の余りその場で

ヴェスターの肩を借りるようにして
よろめくと

 

「すまない、思ったより私も疲れているようです。
少し休ませて貰います。」

 

リースもまた別室で傷と疲労を癒すべく歩き去って行く。

 

「それにしても、だ。リース公子にあれ程可愛らしい

妹が居たとは知らなかったな。」

 

リースが去り人気が無くなった廊下でバンミリオンがぼそりと呟く。
それを聞いてヴェスターが半ばぽかんと口を開けてその後こみ上げる笑いを
抑えるかのように肩を痙攣させ何度かバンミリオンの肩を叩く。

「はは……おい、お前の目は節穴か?あの娘(こ)が

只の妹である筈もなかろう。
お前には男女の機微と言う物が分からんのか?」

 

ヴェスターは、まるで弟にでも言うように気さくにバンミリオンと接し
それを聞いてバンミリオンが口を開きかけるとその直後に
部屋のドアが少し開き、中から鋭い視線の

パラミティースが「お静かに」と告げる。
どうやら部屋の中にも丸聞こえだったらしい、2人の男の会話は。

何しろ、声が大きいのだ。

 

2人はバツの悪そうにパラミティースに軽く謝るように右手を翳すと
やがては沈黙がおりる……


「適当な部屋で続きを語るか。」

 

と、ぼそりと言うヴェスター。そして2人の公子は部屋を移動して
存分にリースの義妹について談義するのであった。

やがては、治療班の尽力の甲斐もありリネットは

立ち上がってゆっくり歩ける程度には
回復した。
また、深手を負ったリースを初めシノン騎士団の

面々と傭兵達、そのどれでも無い者達も
十分に静養を取り数日が経とうとしていた。


その間に遣って来たベルナードの言葉によるとどうやら今
ラーズ帝国では大変な事が起きているらしい。
皇帝の死による内部分裂。教皇ウルバヌスの暗躍、

そして幼帝マナリスとその母親である
アナスタシア妃の脱出。脱出劇にはどうやらゼフロス将軍も

一役買っているとの事で。

帝国は今やファイサル皇子・教皇派とマナリス皇子・ゼフロス派に別れ
抗争の真っ最中だと言う。
これを機に反攻に出ると勇敢に語るベルナードに対しリースは出来る限り
協力する旨を告げるのだった。

 

そして彼らは一丸となりて動き出す……
ナルヴィア・ボルニア・シノンの3軍は一部をローランド地方の
制圧に移しナルヴィア帰城の最中であった。
そして立ち寄ったサーラの村で
驚くべき情報がもたらされるのである。

 

即ち「ウォルケンス王自らがラーズ帝国兵及びラーズ神官達を
城へと上陸させた」と。
これは、正気を疑う行動である。
また、それにはヘルマン卿も一役買っていたと言う話と
バンミリオンの父ロズオーク卿も囚われとなったと言う話を聞けば
腑に落ちる節もあり
「やはりヘルマン卿は帝国の回し者であったか……」
と言う確信を持つに至るのである。
その上でシェンナ王女も囚われとなった事を聞けば
逸る心を抑えつつロズオーク卿やシェンナ様の
奪還に向かうのだとたちまちの内に話は進んでいく。

 

その後の作戦会議でバンミリオン、ヴェスターの両名が城下の制圧にまわり
リース達は城内に囚われている者を助けその後王宮内部のラーズ兵士達を
一掃、王座の制圧をすると言う事が決まる。

 

おそらく、これが最後の戦いであろう事は予感としてリースの胸にあった。
ナルヴィア城へは、明日の朝一番に発つとして
リースは先ずは大切な者へと己の言葉を届けようとする。
即ちリネットへと。

 

「リース兄様、お呼びでしょうか?」

 

数刻の後に、執務室へとリネットが入ってくれば
リースは机越しにその姿をまじまじと眺める。
青いセミロングの髪、その両側を軽く巻き毛としている
少女らしい可愛らしい髪型で頭にはヘアバンドをし今は
動きやすいミニスカートに身を包んだリネット。
改めて眺めて、リネットは本当に「妹として見るべき女性か?」と心に問う。
血の繋がりは無くとも、大切な存在。
妹以上の存在。
リネットが送ってくれた手紙は今でもティアンナに頼んで大事に
保管してある。
リネットの仕送りやロードグラムと言った贈り物が無ければ
シノン騎士団は数々の困難に立ち向かえなかったであろう。
それらの思い出や今の想いをゆっくりと心の中で咀嚼し、
そして表情を聊か真剣な物へと変えていきながら

リネットへと言葉を紡ぐ。
偽らざるべき真摯な心の内を、今告げるのだ。

 

「リネット、この戦いが終わったら僕は君と一緒に歩んで行きたいんだ。
義兄(あに)ではなく、一人の男として。」

「リース……様…それは。」

 

リネットが思わず両手で口を押さえるとその顔はたちまちの内に
赤く蒸気し、頬は薔薇色になり目は潤むのだった。
リースの言葉が余程嬉しかったのか、リネットは暫く言葉無く立ち尽くしていた。
……5分も経たずリネットがリースの方へと両手を

差し伸ばしリースの手を柔らかく
握りこむようにする。

 

「ありがとう、リース様。私は幸せ者です。

願わくば、この生涯をリース様と共に。」

 

暖かく血の通ったリネットの手を握り返し、リースは明るく笑んだ。
それはリネットが今まで見た中でも、一番素敵なリースの表情であったと言う。

 


~~~終~~~