徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

ベルウィックサーガ・7週目ミニ小説・第十四章「集いし者」~another side~

難攻不落のダムサル砦に捕らわれた、

リネットを助け出す為に
リースは部下や仲間達に内緒で明け方、馬を単身走らせる――。


平原を越え、海岸を走り、一路中継地点であるサーラの村へと。

 

 

サーラ村。
リース達がナルヴィア王宮へと向かう途中で
最初に訪れたナルヴィア領内の小さな村である。
丁度一年余り前に、訪れたそこは記憶にある村と

少しも変わりなく
静かで質素な雰囲気を醸し出していた。


ずっと馬を走らせて来た物だから、少しの休憩を…とばかりに
村の民家の戸を叩くリースである。
中から出てきたのは、村人では無く良く見知った顔。
二人の青年の姿にリースは思わず目を丸くする。


緑の髪を持つ明るき表情の青年バロウズが、リースを見るなり

 

「おっ、やっと来ましたね。待ちくたびれましたよ。
さぁさぁ、中へ!」


ぐいっと手を捕まれて中へと招かれる。
金髪の方の青年イストバルも、無言で何度も頷きながら
リースとの再会を喜ぶように表情を綻ばせていた。

 

「これは、一体…?何故君たちがここに居るんだ。」

 

リースは、腑に落ちないと言う風に
二人に静かに声を掛ける。
ウォルケンス王の命令に背いた自分は
やがて罰を受ける身。
だが、部下や仲間達に黙って罪を犯せば
それは自分一人の咎になる――。
そう思えばこそ、単騎で出向いた訳なのだが。
目論見は、見事に外れてしまっていた。
部屋の中では、もう一人。
赤毛の少女のセネが『ふふっ』と
笑ってピースサインをリースに送る。

 


「ね、あたしの情報網を甘くみないでよね?
リース様、一人で全部背負い込もうとしていたでしょ。
そんなの、許さないんですから!」

 

セネの明瞭な口調に、リースは思わず
あっと言う顔になる。
なるほど、盗賊のセネならば
自分の挙動に対して聡く先回りする事も可能だろう。
と言う事は――。

 

「他の皆も来ているのか?」

 

そのリースの言葉に、イストバルがこくりと軽く頷き
肯定の意を示す。

 

「まずは馬を休ませ、それから表に居るみんなの
声に耳を傾けてくれよ。あれは相当恨んでるぜ?」

 

半ば冗談交じりにイストバルがそう言えば、
セネがてきぱきとドアを開けて表に繋いである
リースの愛馬…シノン名馬の手綱を取り馬小屋の
方へと連れて行く。
リースは、まだ冷水を浴びせかけられたような
信じられないと言う風な表情で
表に出た。
そこには――――。

 


共に戦ってきた皆が居た。
サフィアが、パラミティースが。
シノン騎士団の面々が。
エルバート、クリス、シロック、ウォード、
アデルにレオン。ダウドにラレンティア。

マーセルに、ティアンナ。


そして傭兵の身ながらも
騎士団に加入した者。
フェイ達も立ち並んでいた。
彼らの引き連れる精鋭たちも全て欠ける事無く
ここに揃っていたのだ。

 

リースは、暫し無言で居たがやがて全員の前まで来ると
軽く頭を下げて

 

「すまなかった。皆に黙って出てきてしまった。」

 

と一言述べるのである。

 

 

それに対し、口々に仲間達が告げる言葉は
暖かく…そして真剣なその語調は皆一丸となって
リネット公女を助け出すと言う強き意志を示す物だった。
皆、王命に背く事で受ける罰など恐くは無いのだ。
むしろ、リースと共に居られない事の方が
何よりも辛いのだと言わんばかり。

 

それに対しリースは、感動の面持ちで
「ありがとう。」

と礼を述べるのみである。


自分は、なんと仲間に恵まれた事だろう。
皆なんと義理堅くまた気の良い人達ばかりだろうか。
掛け替えのない絆に触れ、リースは改めてリネット救出を誓うのであった。

 

 

リースは、サフィアとイゼルナに片方ずつ手を取られ
暖かい焚き火の前へと誘われる。
冷え切った体に火の火照りが心地良い。

 

 

「リース様、お疲れでしょう。リネット様救出に
逸るお気持ちは分かりますが少し休息なさって下さい。」

 

 

優しい風貌のシスター、イゼルナがそう告げると

毛布を一枚持ってきて
リースにそっとかぶせた。
その側ではサフィアが、心配そうにこちらを見ている。
何やら言いたげなその顔付きに、リースは『ん?』と
顔を上げてサフィアの言葉を待っている。
だが、サフィアは一言


「リネット様、お可哀想…必ず助け出しましょう。」

 

と言ったきり側を離れてしまった。
サフィアは、内心リネットに対して嫉妬していた。
ここまで必死な様子のリース公子など見た事が無い、
と言うのも理由の一つ。
そして、分かってしまった。
リースにとって、リネットは一番大切な人である――と。

 

 

先の戦いでラーズの僧兵団ラーゼンクローに捕らわれた
自分達を助け出してくれたリース。
その時も今と同じような真剣な表情をしていた、が
まさか王に忠誠を貫き実直に任務をこなして来た
リースがその命に背く等想像もできなかったから。

 

サフィアは、何処へも向けようが無いそのもやもやと
した気持ちをパラミティースにぶつけるしか無いのだ。
そうする事でしか自分の気持ちの整理がつかない事実を
サフィアは酷く…恥じると共に嫌悪もしていた。
リース様の大切な人に嫉妬する等自分はなんと醜い心の
持ち主か、と。


だからと言って、リネット公女を助け出そうとしている
リース公子や仲間達を全力で助けようとする
気持ちに偽りはない。

 

だから恐らく明日、繰り広げられる激戦の中では
努めて平静で居ようと決意していた。
自分は、ヴェリアの巫女なのだから。
巫女には巫女の役目がある。
その定めは逃れられない物である。

ならば生まれ持ったこの力を
せめて大事なリース様のお役に立てて見せよう。

 

サフィアは、ぎゅっと白いローブの袖口を掴み
一人静かに決意を固めるのだ。
パラミティースは、ただそれを黙って見ているに過ぎない。

 

やがてパラミティースは、そっと焚き火の前に

座るリース公子へと目を遣る。
部下や仲間たちに囲まれた金髪の公子は
正しく輝きに溢れ…そして何時も通り頼もしく
目に映った。


彼が伝説の人となるのはもうすぐだろう。
もうすぐ――、長きに渡る戦いは終わり
人々が夢にまで見た平穏が訪れる。
幾多の血と怨嗟を乗り越え、英雄となるその人は
皆の前で圧倒的な存在感をもって存在して居た。

 

 

~~~終~~~