徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

オリジナル創作小説:『我一人、旅に思う~とある冒険者の日記~』

『我一人、旅に思う~とある冒険者の日記~』

 

『竜』として生きるか。
『人』として生きるか。

どちらかを選べ。

 

父は14歳の誕生日に俺にそう言った。
流浪の民として
街や村を渡り歩く父を正面に見据え、言葉は出ず言い淀む。
あの時、なんと答えただろうか?
それ程昔の話でも無い筈なのに、記憶は定かでは無く
日々の旅の中で更に記憶は遠のく。

 

物心つく頃から母親の存在を知らない。
大きな父の背中におぶわれて、人間の歌を聞かされ人間の食事を
しながら今まで育って来た。
母が居ない家庭なんて今時何も珍しくも無い。
だが、母が人外の者であったとすればどうだろうか。

 

立ち寄った小さな村のあばら家の前に積んである

木材の上に座って
俺は民家で分けて貰った林檎に歯を立ててグシャリと齧る。
そして左腕をマントの下から突き出すとまじまじと
それを見る。
通常の人間の腕の二倍程の大きさ。
青白い色でごつごつとした鱗に覆われた肩から先の腕の形は
明らかにドラゴンと呼ばれるそれだ。

幼い頃は、こんな腕では無かった。
父から手渡された竜の宝玉と呼ばれる品を手にした時点で
俺はこの腕を自在に出したり引っ込めたりする事が出来るようになった。
この腕は、酷く目立つのだ。
人は異質な物を恐れる。
しかし異質な物を受け入れてくれる人も中には居る。

 

それ程腕の立つ訳でも無い野盗程度ならこの腕を見せれば
それだけで相手は逃げて行く。
人助けなんて馬鹿馬鹿しいが、自分の身を護るには十分過ぎる程の
この力だ。

 

ドラゴンの力の片鱗は凄まじく、半人半竜の俺は何度も
この腕に助けられて来た。

 

それにしても、
母はどんな竜だったのか?

父は多くは語る事は無かったが、断片的に得た情報を整理して見るとこうだ。

『父は17歳の時からドラゴン専門のハンターをして居た』

『数年後、片目を潰された青きドラゴンを狩りに行きそれが母との出会いだった』

『俺が生まれてからは、ハンターを廃業しその代わり伝承を扱う語り部となって
各所を点々とした』


”片目の青いドラゴン”


情報は少ない。
俺は父と離れて一人旅を続けながら、ドラゴンに纏わる伝承を
集めて居る。そしてあわよくば母の『その後』が知りたい。

 

ま、知りたいと言いつつこの年にもなると色々と父と母の関係には
疑問も抱くというもんだ。
異種族の結婚は(とは言っても結婚したかどうかも定かでは無いが)
おとぎ話や伝説の中だけと言う認識だったが
俺と言う存在が居る以上、考えを改めざるを得なかった。

 

 

「さて」

 

林檎を二個齧り終えて、俺は木材の上から軽やかに降りると
懐から新しい地図を取り出す。

大図書館があるラヴィリーツの城下町があるのはずっと北の方向か。

 

腕をすっぽりと覆い隠す夕闇色のマントを羽織り直す。
腕は意識すると直ぐに人間の形態へと戻って居る。
この村で更に食料を補給しつつ、夜通し歩いて北を目指すのだ。

 

時刻は、昼過ぎになって居た。