徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

ベルウィックサーガ・7週目ミニ小説・第九章「橋梁破壊」~another side~

「クラウディア、今戻った………!?」

 

自宅のドアを開けて、騎士ハロルドは
妻にそう告げようとして絶句していた。
目の前には…アーサーが居た。


どうして、ここに…!?
それは、アーサーとても同じ思いだったのだろう。
アーサーも、驚愕したようにこちらを
信じられない…と言う瞳で見返していたからだ。

 

「何時かはこんな時が来るかと…思っていた。」

 

ハロルドは、息子アーサーに
力無くそう言うとがくりと肩を下ろした。
目の前では、小さな赤子を抱いた
クラウディアが目を潤ませて
佇んでいる。
今にも泣きそうなその顔は
いつもにも増して美しく儚げで…
ハロルドにとって彼女は間違いなく
愛する人その物であった。


しかし、自分はクラウディアに
命を救われ彼女との間に子をもうける前は
同盟軍の騎士として、またアーサーの父として
生きていたのだ。
幾ら記憶を失ったとて、大事な家族である
アーサーやサブリナ達の事を見捨てる等と
人としてしてはならない事であった。


こうしてここに立つ自分は
結果として元の家族を裏切り…
そして祖国ベルウィック同盟を裏切っている。
その事は己を責めるような目で見る
アーサーを見ても明らかな事だった。

 


今から3年程前の事…
ラーズ教のシスターとして
軍に従軍していたクラウディアは
ある人物を介抱した。
周囲には知られぬよう、
もし知られてしまったら
自分は罰を受ける事は覚悟の上で。
何故ならその人物は、
同盟軍の紋章を身に付けていたからだ。
傷に苦しみ、うわ言を繰り返すその騎士を
見捨てる事等出来はしなかった。
看病していく内に、クラウディアは
その男に心を寄せて行く事になる。

 

一方、助けられた騎士ハロルドは
自分の出自に関しての記憶を全て失っていた。
サブリナの夫としての記憶…
息子アーサー、マーク…
大切な記憶…
記憶が無いまま、自然にハロルドと
クラウディアは恋に落ち2人は共に暮らし始める事
となった。
子供も授かり、夫婦となった2人。
しかし、クラウディアは気づいていた、
半年ほど前にハロルドは記憶を
取り戻しているのではないか?と。
しかしハロルドは何も言わず
黙って自分の元へと戻ってきてくれる。
何故だろうか、…疑問に感じるも
それを彼に聞く事は出来なかった。
聞けるはずもなかった。
クラウディアは、何時か彼が自分の元を
離れて…元の生活に戻っていくのではないかと言う
心配で夜も眠れない時もあった。
そして現れたアーサー…ハロルドの息子。
今は固唾を飲んで彼らを見守るしか無かった。

 

 

「…殺せ。私を殺せ。アーサー…!」

 

ハロルドは、観念したかのようにその場で膝まづき
裁きを待った。
おめおめと生きながらえ、祖国を裏切り妻子を
裏切った自分を息子は許すまい。

 

「…貴方!!」


クラウディアは、それを聞いて
制止の声を張り上げる。
その時、同時に赤子が泣いた。

 

「ほわぁぁぁ、ほわぁーーーーー!」

 

それを聞いてアーサーは、はっとしたように
そちらに視線を向け…
そして困ったように眉根を下げると

「…立ってください。…どうやら人違いだったようだ。
騎士ハロルドはここには居なかった。お邪魔しました。」

 

頭を垂れて、膝まづいているハロルドをその場に残したまま
アーサーは表へと続くドアを開けると
そのまま出て行った。

残される3人。


「よしよし、大丈夫ですよ。お母さんもお父さんも
ここに居ますからね。」

 

クラウディアは、赤子をあやし…
そしてじっとハロルドの方を見る。
ハロルドは、黙ってアーサーの出て行った
ドアの方角を見ていたが
妻のその視線に気が付くと
表情を変えぬままに
告げる。

 

「記憶が…戻ったんだ。言わずに居てすまなかった。」
「気づいて、居ました。でも貴方は
私達を捨てる事をしなかった。
それが、嬉しいのです。」
「私の居場所は、今はここだ。
過去のハロルドは死んだ。」
「はい。…貴方の事をこれからも愛しています。」

 

ハロルドの妻のその言葉に、
安堵し頷き…そして赤子の頭に軽く手を置くと
柔らかいその頭を静かに撫でてやるのだった。


一方のアーサーは、複雑な心境で
リース達の部隊へと馬で駆けていく。場所は、
レマゲン大橋付近…
現在の戦況はと言うと橋を守る帝国のランス兵達と一戦やり合った
後、橋の両脇に配置されたバリスタを破壊した所である。

 

「よう、アーサー遅かったな。」


うかぬ顔のアーサーに声を掛けたのは
シノン騎士団に所属する槍騎士レオンだ。

 

「ああ、ちょっと…長引いてしまった。」
「親父さんに会いに行ったんだろ?どうだったんだ。」
「えっと…ハハハ。人違いだったよ。」

 

軽い調子で聞くレオンに対し
アーサーは、真相を話す事も出来ず
誤魔化すように笑いを浮かべ、嘘を言った。
父の事は、自分だけの秘密として
墓場まで持っていくつもりだった。
何より、あの小さな
赤子には父が必要だろう。

 

母サブリナにも、嘘を付かねばならないと
なると気が重いが…。
とりあえず、戦いはまだ続いて居る。
遠方を見れば、哨戒任務を命じられているであろう
帝国のギガースナイトが
重い鎧と身の丈程もある斧を
手に持ち歩んでいるのが見えた。

前方に広がるのは、川沿いの狭い道である為に
シノン騎士団は嫌でもギガースナイトと
相対しなければならない。
騎士団は、全軍リースの号令を待っていた。

 

そしてアーサーもまた…
戦いに集中すべく
雑念を振り払い、
時を待っていた。
いつ終わるとも知れぬ帝国との戦い…
その中でいつか、父とも戦わねばならないのだろうか?
自分は、その時が来ても戦えるのだろうか。
その心中は誰にも分からず……。
運命は着実に前へと動いていく。

 

~~~終~~~