徒然の都

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ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編Part3.

ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編Part3.

『第9章・再びの試練Another』Part3.

 

「でも、だからと言って貴方一人をここに残しておくわけにもいきません!」

「もう、しつこい子ね。でも、その真っ直ぐな瞳は嫌いじゃないわ。
私に手を差し伸べるお節介なお嬢ちゃんがどれ程の物なのか興味が湧いたわ。
そのお節介、何時まで続くのかしらね。と言う訳で」

 

よろしく、とニュクスは小さくて白い右手をカムイへと差し出した。
それを握り、よろしくお願いします。とカムイも言葉を紡ぐ。

 

とその時、エリーゼがカムイの耳元に唇を近づけるようにして
接近して来る。こそこそ、と耳打ちをして話す事は、

 

『あのね、お姉ちゃん。……呪いで色々考えてみたんだけど
呪術と言えば誰か思い浮かばないかなっ!』

「……?」

きょとんとしていると、続けて耳元でエリーゼが呟く。

 

『お父様の側近のマクベスがね、呪いをかけた犯人じゃないかな!

ってあたしは思うの』

「あっ!」

慌ててカムイはエリーゼを諭す。殆ど2人の間でしか聞こえないぐらいの小声で。

『可能性はあってもマクベスさんが呪術を行った確証はありません。

そう言う言葉は控えて下さいね。エリーゼさん』

「はぁい」

そのままエリーゼは、離れて行ってそれ以上の話はしなかった。

 

カムイも気を取り直して、
最初の作戦通り側面の壁を壊して砦内に突入する事を告げると
軍の皆を連れて移動して行く。

ハロルドが斧でがっつりと壁を切り崩し、オーディンとニュクスが
魔法で更に削り取って行く。
やがて、人が数人分通れる穴が穿たれれば、中へと入り戦いが始まるのだ。

 

一方その頃、暗夜王国の一室では呪い返しの術をニュクスに施され
自分のかけた呪いにかかってしまったマクベスがしきりに
悪寒に苛まれ顔面蒼白でブルブルと体を震わせて居た。

 

人を呪わば穴二つ、とも言うがその通りになった
マクベスはしきりにブツクサと
文句を言いながら解呪の魔法を施す為に

魔法陣のかかれた別室へと移動して行く。

 

「全く、カムイ王女が任務を遂行出来ないようにしてやったのに、
ヴァーックショイ!何処のどなたが呪い返しを!」

 

その時、マクベスはカムイの軍の中に一人のダークマージの青年が居た事を
思い出す。彼は確かレオン王子の部下、自らを漆黒のオーディンと名乗る
奇妙奇天烈な言動をする若者だった筈だ。奴が気づいてやったに違いない!
仮に無事に戻ってきたら見ておきなさい、と悪態をつく。

その頃、戦いの最中でありながらオーディンは、盛大なクシャミをして
して居た。

 

後程分かった事と言えば、黒竜砦には白夜王国の民人の反感により
軟禁されたアクアが居り、無事にカムイは彼女を助け再会を

喜び合ったと言う事だ。

 

<終わり>

ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編Part2.

ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編Part2.

『第9章・再びの試練Another』Part2.

 

「砦の正面を大きく迂回して中の兵に気づかれないように横の壁に取り付き
崩すんだ!」

とそこで、前方を横切る小さな影に全員が気が付く。

「……えっ?なんで子供が?」

 

見た目は、暗夜王国のダークマージ風の服装をした小柄な女の子が
平然と歩いて居た。
黒を基調としたかなり露出度の高い服装で、紫と黒が混じったような
くせ毛がかった髪を腰まで伸ばし
妙に落ち着いて場慣れしている表情でこちらをちらっと見た。

サイラスが代表として馬から降りて進み出ると、女の子は

「貴方達暗夜の兵なのかしら?私はニュクス。言っておくけど私は子供じゃないから保護なんて要らないわよ」

どう見ても11~12歳程度だがその瞳に宿る色合いは
年には似合わず落ち着いて居る様子だ。

「俺はサイラス。暗夜の騎士だ。そしてこちらは暗夜王国のカムイ王女と仲間達だ。
いや、ここに居るとすぐ戦闘になって本当に危ないぞ。良い子だからこちらで大人しく……」

「だから子供とは違うと言って居るでしょう?暗夜も白夜も子供だ子供だと追いかけまわしたり
捕まえようとしたり……あら?」

そこで、その女の子……ニュクスはサイラスの馬に寄りかかって倒れ込んだ姿勢のままで居る
カムイの方へと目を遣る。

「……その子。酷い呪いがかかっているわね」

「……ん?呪いだって?」

「直ぐに降ろして見させて頂戴」

サイラスは、ゆっくりとカムイを馬の背から降ろし前に抱え上げそしてニュクスの前で座り膝を付いてよく
見えるようにした。

後ろで、行軍について来たオーディンバツの悪そうな顔している。
その横でゼロが、腕を組みながら「なんで呪術の専門家のダークマージの
お前がカムイ王女の呪いに気が付かなかったのかねえ?」
と半分面白そうに半分皮肉っぽくオーディンに話しかけて居た。

「お、俺の専門は人を呪うと言う忌まわしき縛鎖では無い。

例えるなら聖浄な星海の内の一つ
の力を借りてそれを我が闇の力と融合させ真なる秘められし

奥義を……って聞いているのか?」

等と勝手に繰り広げられる茶番もニュクスの「しっ!」と言う
鋭いジェスチャーと声で一気に静かになる。

胸元から魔導書、そして腰に下げた何か黒くて細長い乾燥植物が入った瓶を取り出しニュクスは
解呪の簡易儀式を始めようとしていた。

蓋を開けた小瓶の中の植物を瓶を逆さにする事で取り出し、手の平で握りしめクシャクシャにする。
カムイの鎧の胸元にそれを置くと、魔導書を開き
その一節を3度繰り返して唱える。

『枯れし井戸が滾々と、再び生命の輝き戻れよ、悪しき呪いは悪しき術者の元へ』

と言うような意味合いの呪文だが、高速で圧縮して唱えているので
周囲には意味は聞き取れないだろう。

唯一、オーディンだけはその呪文の内容を
分かったような分からなかったような微妙な顔付きで居るのだが。

徐々にカムイの頭の先から黒くてもったりとした煙が吹き出て、
それは天へと昇って行った。

「……ハッ!」

途端にカムイがサイラスの腕の中でゆっくりと体を起こす。

「大丈夫か!カムイ。実はこのニュクスさんが……」
「はい、意識が朦朧として居ましたが話は聞こえて居ました」

体を蝕んで居た呪いが、すっきりと出て行き徐々に顔色が良くなって行く。
そしてほぼ動けなかった体が嘘だったように体を起こすと
前を向く。


「皆さん、もう大丈夫です。ご迷惑をおかけしました」

「お姉ちゃん!」

エリーゼが、カムイの服の裾を握りながら満面の笑顔を見せて居た。
ジョーカーも、感動したような顔で明るく頷いた。
他の者達、エルフィにハロルドも安堵の笑みと爽やかな笑みを見せて居た。
ゼロはふん!とシニカルに笑いオーディンは静かに拍手をして居る。

これで怖い物無しとばかりに、カムイ軍が湧き立つ雰囲気の中、ニュクスは素っ気なく
その場から一人離れて行こうとする。カムイはいち早くそれに気が付き立ち上がり、

「あっ、ニュクスさん。お礼が遅くなりましたがありがとう御座いました」
「礼なんてよして、ほんの気まぐれよ」
「あの……何故この場に貴方が一人で居たのか私には分かりませんが、
私達と暫く行動を共にしませんか?」

そのカムイの言葉を聞いてニュクスは、

「面倒事はごめんだわ。私はただ、誰の目にも触れず一人で生きて居たいだけ」

「一人……貴方は一人なんですか?ご家族やご友人の方は?」
「ええ、そんな人達とっくに居ないわ。みんな私の事を気味悪がって
去って行った。だから私は一人で生きていくのよ。それだけよ」

 

<続く>

ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編

ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国

『第9章・再びの試練Another』Part1.

 

氷の部族の住む土地の平定を辛くも達成した、女カムイ達一行。
暗夜王国の王城
『クラーケンシュタイン』へと報告の為に戻り、その功績として再び
実の子と認めると言う
ガロン王の言葉に喜んだのも束の間の事。
次は、ノートルディア公国に赴き白夜王国の勢力を駆逐せよ、
との命令を受けた。

 

束の間しか休息をする事を許されず、カムイはすぐに精鋭の仲間を連れて
次の日暗夜王国を朝早くに出立し
ノートルディア公国へと向かっていた。

まず目指すは黒竜砦と呼ばれる天然の要塞。
そこでは敵対する白夜王国の精鋭達が陣を張って
待ち構えて居ると言う。

順風満帆に見えた行軍だったが、徒歩で歩いて居た
カムイの様子がどんどん目に見えて悪くなって居た。

 

「大丈夫か?カムイ」

 

親友の騎士サイラスが馬から降りて手を

差し伸べて、そして後ろから付いてきていた
執事のジョーカー、妹王女のエリーゼもカムイの変調に対し心配そうに
覗き込んで居た。

「……っ、皆さん。私は平気です……。構わず進軍を」

 

カムイの顔色は真っ青になっており、額に脂汗が浮かんで居た。
寒気がするのか小刻みに体を震わせてサイラスに体を支えられて居る。

 

「カムイお姉ちゃんっ!とてもじゃないけど平気には見えないよ。
今から治癒の杖(ライブの杖)で治すね」

 

エリーゼが、真近くまで寄って来ると杖をかざし得意の
治癒魔法でカムイの体調を治そう……として来たが。
数回ライブの杖の光を当てられてもカムイは、変わらず苦しそうにして居る。

「あれっ?なんでー?」

不思議そうに瞬きするエリーゼだったが、その横でジョーカーが
恐ろしく険しい顔をしてその様子を見て居る。

そして黙って居る余裕も無くなったのか
エリーゼのライブの杖を横からひったくるようにして
奪い「カムイ様、エリーゼ様。ここは私にお任せください」

先程と同じく杖を振り、不調を癒そうとする。
しかし、結果は先程と同じで何の変化も起こらなかった。

「くそっ、カムイ様が苦しんでおられるのに何故治癒の杖が効かないんだ!
この不良杖が!」

 

最後にはジョーカーは怒りだし、冷静の仮面をかなぐり捨てて杖に
八つ当たりして悪態をついて居た。

「……とりあえず、引き返すか?カムイ」

カムイを腕に抱きかかえる形で彼女の耳にそう囁く。
目を瞑り苦しそうなカムイだったが、その言葉には緩く首を横に数度振った。

「今ここで、引き返したら……ガロンお父様はさぞかし
がっかりされるでしょう。どうしても、這ってでもノートルディアを目指さないと」

「よし、そこまで決心があるなら俺は協力する」

今度はカムイを横抱きにする形で
持ち上げ自分の馬の鞍の前に乗せようとする。

「おい、てめぇ。一人で美味しいポジションを取りやがって」
と言うジョーカーの本音混じりの嫉妬を背後に聞きつつ、
サイラスが少し振り返ると剣呑な雰囲気の瞳でこちらを見据えるジョーカーと
とても心配そうに、そして少しだけ涙を目の端に浮かべたエリーゼ王女が
見えた。

「カムイはご覧の通りだが、目的のノートルディア公国への進路は変わらない。
このまま進むんだ!」

それが、指揮官であるカムイの意志だと言う事を周囲へ知らしめて
馬の手綱を握り前に乗ったカムイを労わりながら
軍の皆に合わせて馬を進めるのだった。

そして大分歩いた頃、漸く第一の関所とも言える黒竜砦に
到着する。そこは、大きな洞窟のようにも見える黒々とした入口が
口を開けて待っており、奥には和装に武具を付けた白夜王国
兵士がたむろして居る。

こっそりと離れた所で、木々の間に隠れつつ砦の様子を探る偵察役の盗賊ゼロが
言うには、正面から突破するより砦を構成する壁の脆い所を崩して一気に中へと入り
隙をつき各個撃破するのが良いとの事だ。
だが、肝心の指揮官のカムイがますますぐったりとして
しまってサイラスの馬の上で顔を項垂(うなだ)れさせて居た。

「……す、すみません」

消え入りそうな声で告げ、その顔はますます青白く苦し気な様子だ。
だからサイラスが、カムイの代理として今は指示を出しているのだ。

 

<Part2へ続く>

オリジナル創作小説:『我一人、旅に思う~とある冒険者の日記~』

『我一人、旅に思う~とある冒険者の日記~』

 

『竜』として生きるか。
『人』として生きるか。

どちらかを選べ。

 

父は14歳の誕生日に俺にそう言った。
流浪の民として
街や村を渡り歩く父を正面に見据え、言葉は出ず言い淀む。
あの時、なんと答えただろうか?
それ程昔の話でも無い筈なのに、記憶は定かでは無く
日々の旅の中で更に記憶は遠のく。

 

物心つく頃から母親の存在を知らない。
大きな父の背中におぶわれて、人間の歌を聞かされ人間の食事を
しながら今まで育って来た。
母が居ない家庭なんて今時何も珍しくも無い。
だが、母が人外の者であったとすればどうだろうか。

 

立ち寄った小さな村のあばら家の前に積んである

木材の上に座って
俺は民家で分けて貰った林檎に歯を立ててグシャリと齧る。
そして左腕をマントの下から突き出すとまじまじと
それを見る。
通常の人間の腕の二倍程の大きさ。
青白い色でごつごつとした鱗に覆われた肩から先の腕の形は
明らかにドラゴンと呼ばれるそれだ。

幼い頃は、こんな腕では無かった。
父から手渡された竜の宝玉と呼ばれる品を手にした時点で
俺はこの腕を自在に出したり引っ込めたりする事が出来るようになった。
この腕は、酷く目立つのだ。
人は異質な物を恐れる。
しかし異質な物を受け入れてくれる人も中には居る。

 

それ程腕の立つ訳でも無い野盗程度ならこの腕を見せれば
それだけで相手は逃げて行く。
人助けなんて馬鹿馬鹿しいが、自分の身を護るには十分過ぎる程の
この力だ。

 

ドラゴンの力の片鱗は凄まじく、半人半竜の俺は何度も
この腕に助けられて来た。

 

それにしても、
母はどんな竜だったのか?

父は多くは語る事は無かったが、断片的に得た情報を整理して見るとこうだ。

『父は17歳の時からドラゴン専門のハンターをして居た』

『数年後、片目を潰された青きドラゴンを狩りに行きそれが母との出会いだった』

『俺が生まれてからは、ハンターを廃業しその代わり伝承を扱う語り部となって
各所を点々とした』


”片目の青いドラゴン”


情報は少ない。
俺は父と離れて一人旅を続けながら、ドラゴンに纏わる伝承を
集めて居る。そしてあわよくば母の『その後』が知りたい。

 

ま、知りたいと言いつつこの年にもなると色々と父と母の関係には
疑問も抱くというもんだ。
異種族の結婚は(とは言っても結婚したかどうかも定かでは無いが)
おとぎ話や伝説の中だけと言う認識だったが
俺と言う存在が居る以上、考えを改めざるを得なかった。

 

 

「さて」

 

林檎を二個齧り終えて、俺は木材の上から軽やかに降りると
懐から新しい地図を取り出す。

大図書館があるラヴィリーツの城下町があるのはずっと北の方向か。

 

腕をすっぽりと覆い隠す夕闇色のマントを羽織り直す。
腕は意識すると直ぐに人間の形態へと戻って居る。
この村で更に食料を補給しつつ、夜通し歩いて北を目指すのだ。

 

時刻は、昼過ぎになって居た。

ファイアーエムブレム聖戦の系譜・二次創作小説『呪縛』Part5

ファイアーエムブレム聖戦の系譜/SS
『呪縛』Part5

 

軽く2度ノックした後に、中から入れと言う声が
聞けたならば胸を精一杯堂々と張り
ユリウスの広き私室の中に招き入れられる。
入って直ぐ正面には会議用の長机が。
それには、今は真っ白の
テーブルクロスが広げられその上に豪勢に並ぶ食事の数々だ。
しかしその食事の内容へと目を遣った瞬間イシュタルは、
思わず固まってしまうのだ。
ユリウスが、目の前に用意させた物。それは……


(えっ……?)


明らかに子供の手と思わしき、物体が皿の上に盛り付けられている。
その肉には火が入っており、野菜も一緒に並べられていた!
イシュタルは、その物体を認識した瞬間込み上げて
来る吐き気に一瞬だけ背中を丸くした。

 

それは、……人肉だった。
有り得ない物を見てしまったイシュタルはそれでも、

よろけながらユリウスの近くの席へと倒れ込む。
それを面白そうににやにやと眺めながら、ユリウスは告げるのであった。


「今日のは特別メニューだ。これを食えばお前もさぞかし……
力がみなぎるだろう。
くくっ、これは最高の食材だ。」


そう言いナイフとフォークを使わずに、右手で腕の
部位の肉を手に取るとソースをしたたらせつつ
それを食うのである。
イシュタルは、彼がその肉を食うのを見るのは
初めてであったが驚きを通り越して
脱力してしまった。暫しの逡巡の後、


「私は、……私は食べられません。ごめんなさい、
ユリウス様。まだ胃が食事を受け付けないのです。」

 

それは半分は本当の事である。
人肉を食べる、しかも子供狩りで集めたであろう
幼い子供の肉だ。食べられる筈も無い。
俯いて、暗い表情を見せるイシュタルに対し
ユリウスはそれを気にする事無く食事を続ける。
食らい、咀嚼し、そしてまた別の料理にも手を伸ばす……
その様は人間離れした物であったか。


(ユリウス様、どうされてしまったの?
そんな事を平然と行う方では無い……、それなのに。)


(子供狩り、それだけは許してはならないのだと……)


イシュタルの胸に正常な判断が差し込む。
子供を救う。かつユリウスに忠誠を捧げる。
その両立は難しい物であるだろうが、この時芽生えた
微かな違和感は、後にイシュタルをある行動へと導くのである。


巷では、ユリウスは暗黒神ロプトウスの
化身だと揶揄されている。
人ならざる者、人を超えた者、そして『人を食らう者』……

椅子にもたれかかるようにしてイシュタルは、気づかぬ内に体を弛緩させて軽く気絶していた。
その後は、あまり記憶が鮮明では無い。
気がつけば、食事の席はきれいに片付けられており
イシュタルはソファの上に横たえられていた。


「ユリウス様……。」


変わらぬ姿が目の前にある、それを見ては安堵の息を零し
ゆっくりと足を絨毯の上へと置き
起き上がろうとした。
と、ふいにユリウスが手を伸ばしイシュタルを軽々と
横抱きにして抱え上げる!
イシュタルは彼の首に抱きつくようにして
手を伸ばすと微かに目を閉じた。
ああ、今日も。今日もまた……捕らえられる。
捕らわれてしまう。溺れてしまう。
それは、呪縛と言う名の枷である。

椅子にもたれかかるようにしてイシュタルは、気づかぬ内に体を弛緩させて軽く気絶していた。
その後は、あまり記憶が鮮明では無い。
気がつけば、食事の席はきれいに片付けられており
イシュタルはソファの上に横たえられていた。


「ユリウス様……。」


変わらぬ姿が目の前にある、それを見ては安堵の息を零し
ゆっくりと足を絨毯の上へと置き
起き上がろうとした。
と、ふいにユリウスが手を伸ばしイシュタルを軽々と
横抱きにして抱え上げる!
イシュタルは彼の首に抱きつくようにして
手を伸ばすと微かに目を閉じた。
ああ、今日も。今日もまた……捕らえられる。
捕らわれてしまう。溺れてしまう。
それは、呪縛と言う名の枷である。

 

赤き瞳と、紫の瞳が交差するとユリウスはにやり、と不敵な笑みを浮かべ
そのまま寝室の方へと歩んでいくだろう。
寝室の扉が、魔力でぎぃ……く

開けられるとその奥には
きちんと整えられたベッドがあった。
ユリウスが、1歩1歩歩んで行く度にイシュタルの心はざわざわと揺れる。
2人の間に最早言葉は無く、ありのまま、触れ合うのみだ。

静かに、静かに寝室の扉が閉まっていく。

捕らえられてしまった少女は、夜が明けるまで離される事は無いだろう。

 


<終わり>


 

ファイアーエムブレム聖戦の系譜・二次創作小説『呪縛』Part4

ファイアーエムブレム聖戦の系譜/SS
『呪縛』Part4

 

それと耳に付けるルビーのピアス、靴等も用意するように言うと
それだけで疲れてしまったかのように顔を伏せる。
こんな、やつれた姿を本当はユリウス様に見せたくない。
いつも毅然とした私でありたいのに、……そう思うと微かに心が暗くなる。
それでも、それでも……ユリウス様が私を必要として下さる限りは、
私は私で居られる。
雷神イシュタル。
そう呼んで皆が恐れるトールハンマーの使い手ではあったが
主君ユリウスに捧げる想いは真摯な物であった。
否、それは呪縛と言っても良い。
蜘蛛の糸に易々と絡めとられがんじがらめにされてしまった蝶、それでも
蜘蛛に恋焦がれてしまったかのように魅了され
自らの身を差し出し続ける……
蝶はイシュタルの今の姿その物である。

 

(明日が、待ち遠しいわ。)

頬はこけて、明らかに不調な様子を漂わせるイシュタルだったが
今はただ静かに休養して一刻も早くこの病床から復帰せねばとしっかりと

心に決める。
つやつやと滑らかで清潔なシーツの上で、枕に顔を
埋めてもう一眠りをするのであった。

 

 時は一日経ち、早くも夕刻が訪れた。
まだ少しばかり眩暈はする物の、立てぬ程では無い。
侍女2人に手伝ってもらいゆっくりと黒のドレスに身を包み、
新調させた靴に足を通すと、
鏡に映った己の姿を見る。
白粉と頬紅で誤魔化してある物のやや、頬はそげている。
だがそれでも意思のあるはっきりとした紫の瞳は、やつれを感じさせぬ程
力強く輝きそして凛とした空気を纏わせていた。

約束の時間のきっかり20分前に、全ての準備を済ませると、
廊下に出て床に敷かれている紅き絨毯の上を歩いて行く。
じりり、と足に痺れが走る……だがその痛みすらも
これから愛する人に会えると言う
喜びの前には霞むと言う物だ。


「ユリウス様、失礼いたします。」

 

Part5へ続く

ファイアーエムブレム聖戦の系譜・二次創作小説『呪縛』Part3

ファイアーエムブレム聖戦の系譜・二次創作小説

『呪縛』Part3

 

バーハラ城の一室で3日3晩篭もり、ユリウスはイシュタルの

蘇生を試みた。
命の灯は最早一刻の猶予も無い程切れ切れとなっており
並みの治療では彼女の復活は難しいであろう。
治癒術を得意とする暗黒司祭すら身辺に寄せ付ける事もせず、ユリウスはイシュタルの
蘇生に成功するが……彼がどんな秘術を用いてそれを成したかは公には
されて居ないのだ。
切り刻まれた肉体を魔力によって強制的に繋ぎ合わさせ、
そして飛びかけた魂を呼び戻すと言う
禁術でもってイシュタルは、息を吹き返したがその代償として
体中に絶えず鈍痛が走り一週間は歩く事も出来ずまた、
ベッドから起き上がれず
寝たきりとなったのであった。
弱りきったイシュタルに対しユリウスは何度か見舞いに来た。
そして自ら来られない時は部下の司祭達に手紙を持たせてそれを
イシュタルへと送り届けたのであった。


「体調は大丈夫か?イシュタル。お前の体はとても大事な物だ。
即ち、次なるロプトウスの器となる子供の母体として相応しい。
せいぜい、食事をしっかりと取り休養し体を厭え。」


手紙の内容は始終この調子である。
だが、イシュタルはその手紙を貰っただけで心に沸々と暖かい感情が
込み上げてきてユリウスのその言葉を絶対の物として受け取るのである。
それは、最早盲目的な恋であった。
正直な所、イシュタルは子供狩りと言う行為に疑問は抱いていたものの
それを告げてしまえば彼の不興を買ってしまう。
故に、心を痛めながらも子供達を集めそして聖戦士の
直系の末裔にもかかわらず、自ら進んで暗黒教団の
悪業に協力をしている事になる……。

 

意識がはっきりと戻ったのは3日前の事。

そしてそれから4日が過ぎようとしていた。
イシュタルは体に鈍く走る引き攣れたような
痛みを感じながらうなされていた。
食べられる物は白粥だけ、それすらも大半を残すと言う有様である。

(ユリウス、様……。)

蘇生されている最中に触れられた微かに意識の
底に残るユリウスの燃え盛るように熱い掌を思い起こしながら
痛みにただ、涙を零さずに耐えていた。

 

「失礼いたします、書状をお持ちいたしました。」


黒いローブのフードを目深にかぶった暗黒司祭が慇懃無礼な態度で
だが、ある程度の敬意は払いつつ手紙を差し出してくる。
それを手に持ち、蜜蝋で封をされた紙の端をペーパーナイフで切り取ると
中には見知ったユリウスの筆跡がある。

 

『イシュタル、体の調子はどうだ?明日はお前の為に2人だけの晩餐を
行おうと思う。夜19時に私の私室へ来い。』


体は本調子では無いが、夕食に招かれたとあっては無様な姿を
晒す訳には行かず、イシュタルはベッドの中で背筋を正すと
呼び鈴を鳴らし、自分付きの侍女の一人を呼び出す。


「晩餐に着ていく絹のドレスを大急ぎで用意して。
それと、明日は何時もより明るめのお化粧をして欲しいの。」

 

Part4に続く