徒然の都

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ファイアーエムブレム聖戦の系譜・二次創作小説『呪縛』Part2

ファイアーエムブレム聖戦の系譜/SS
『呪縛』Part2

 

ミレトス城の城壁の外へと現れた稀有なる魔法を継承した者達。
片や、暗黒魔法最強の魔法書ロプトウスを携えたユリウス皇子。
もう片方は、雷の最上級魔法である聖戦士の武器、

トールハンマーを持ちし
イシュタル。
2人がその場に居るだけで、びりびりと痺れるような魔力の放出と余波が
周囲に充満していた。
その2人を遠巻きに、守るようにして配置される暗黒司祭達が複数人。
ある者は、闇の癒しの力を持つ回復の杖を持ち、ある者は魔法防御が低い者を
即座に眠りに至らしめる杖を。
またある者は、遠き距離の者にも届く暗黒魔法を……
と隙の無い布陣を敷いていた。
だが、時が経てどもセリス達の軍がこちらの
方に到達したと言う知らせは届かない。
それでも、いつの間にか一人……また一人と
おびき寄せられるようにして暗黒司祭達の姿が消えていくのにも
2人は気づいていた。セリス軍はどうやら、
暗黒司祭達を十分に引き付け、一人ずつ葬って
行く戦法を取っているらしい。


と、その時である。イシュタルが視界に捉えた一人の人物。
それは、こちらの事を恐れる様子も
無くゆっくりと歩いてくる
金の髪を持つ一人の司祭であった。
纏う空気は、非常に穏やかな物で見る物が見ればその周囲には
風の加護を含んだ魔力が緩く渦巻いているのが分かるだろう。
全くの無防備、と言う風なその人物……年の頃は13、14歳と言った
若き少年はまるでイシュタル達を誘うかのように、
ある一定の位置で立ち止まるのだ。
それに気が付いていて

少しでもユリウスに喜んで欲しい、との想いから
逸る心を抑えてイシュタルが1歩前へと出る。


「私の勝ちのようですね……?ユリウス様!」


素早く距離を詰めるように駆け寄ると、途轍もなく膨大な雷光を纏う
魔道書を開きトールハンマーの詠唱を始めたイシュタルでは
あったが……
その時、戦場の空気が一瞬止まった。
大いなる世界の理(ことわり)が、絶対のルールをもって
その場を支配する!
即ち風は雷に強く、雷は火に強く……


「ああっ!?」


若き司祭から放たれる暴風とも呼べる風魔法。
伝説の神器、フォルセティ。
それは、雷の魔法を軽々と霧散させ
逆にイシュタルの体を切り刻まん、と真っ直ぐに突貫する!
ごう、と吹き荒れる風は2度連続で放たれイシュタルの体を
鋭く切り裂いていく。
ドレスの脇が破けて、そして腕と足、腹部を深く切り裂かれて
鮮血を滴らせながらイシュタルは信じられないと言った表情で
静かに崩れ落ちていく。
それを遠方から顔色一つ変えずにユリウスが眺めていた。
そしてそのユリウスの姿が、魔法の力で包まれ一瞬の内に大地へと
倒れ伏したイシュタルの元へとワープ転移すると
今にも腕が取れそうなボロボロの体のイシュタルに手を差し伸ばし
抱き起こそうとする。


「お前の負けだ、イシュタル。遊びもこれまでだ。戻るぞ。」


その後、フォルセティの持ち主たる司祭や
伝説の魔剣を持つ黒の鎧に身を包んだ黒衣の騎士が
ユリウス目掛けて果敢に挑もうとしたがその前に一瞬の早業で
ユリウスはイシュタルごと転移魔法でその場を離脱していた。
その場に残った暗黒司祭達はそれでも、ミレトス城を守り抜き
最後の一人になるまで死に物狂いで
挑んだが全てセリス達の解放軍に
刻まれその命を散らしたと言う事である。
無論ミレトスに収容されていた
子供達も無事救い出され……
事後、それを聞いたユリウスは
ふん、と尊大に息を漏らしこう言い放ったと言う。


「そんな事よりイシュタルの方が大事だ。」

 

Part3に続く

ファイアーエムブレム聖戦の系譜・二次創作小説『呪縛』Part1

『呪縛』
 
それは、ひたひたと押し寄せる闇の気配その物だった。
穏やかな初夏の陽光の下で、きらきらと眩く輝く光すらも
その闇を阻む事は出来ぬという具合である。
ミレトス城、ロプトウスを信奉する邪悪な
暗黒教団が子供狩りを行う際の拠点であり、そこには
暗黒教の幹部達の司令部も設けられていた。
今も、この城にはクロノス城から
移送された子供達が大勢収容され、そしてその泣き叫ぶ声が
外にまで聞こえて来ると言う異様な様である。
黒神は、幼い子供を生贄に欲し、中でも優秀な能力を持つ者は
友人や兄弟同士で憎しみ合い殺し合いをさせ、
生き残った者は選ばれし奴隷民として生き延びさせる。
そんな地獄絵図のような光景がまかり通っていた。

ここに、美しくも残虐な微笑みを浮かべる一つの人影があった。
暗黒教団の司祭達が、神と呼ぶ一人の少年。
名をユリウスと言う。
ミレトス城のテラスに一人の少女を伴って視察に現われたる彼は
真っ直ぐでありながらもまるで地獄の業火を思わせる長い真紅の髪の毛を
揺らし堂々と眼下の己の領土を見渡していた。
涼やかな眉根、きりりと引き締まった唇、しっかりと前を見据え
人を使う事に慣れた上の位に立つ者の威厳を窺わせる鋭い瞳。
麗しさの中にも、気品があり闇の皇子に相応しい貫禄なのだ。
そして彼が連れている横の少女は、一目見ただけで只者では無い雰囲気を
纏わせていた。
横に深いスリットの入った艶やかな漆黒のドレスに身を包み、
フリージ家の血縁である事を表わす素晴らしい輝きの銀の髪を高く
結い上げた少女は己の主君であるユリウスの側に
自然な様子で控えている。
深いアメジストを思わせる紫の瞳を覆う睫(まつげ)は
朝の光を纏って美しい川面の煌きをも思わせる。
その瞼が微かに、持ち上がり控えめな様子でユリウスを見上げれば
そこには明らかな恋慕の情が見て取れるだろうか。
 
「セリスの軍がこのミレトスに、進軍して来る。イシュタル。
視察は済んだ。
ここは暗黒司祭共に任せてバーハラへ帰ろう。」
「はい、ユリウス様。」
 
イシュタルと呼ばれた少女は深く頷き、主君の命令を聞く。
ユリウスは満足そうにその様を眺めていたが、
ふと何か面白い事を思いついた……と言う風に唇の端を流麗に釣り上げると
その口から残酷とも無邪気とも取れる言葉が飛び出すのだ。
 
「そうだ、ついでにお前と2人で遊びたいな。
今から反逆者を一人血祭りに上げるぞ。
どちらか早く仕留められるか競争だ。いいな?」
 
その言葉と共に、ユリウスはイシュタルの真近くまで歩いて近づき
顎に軽く手を添えるようにして上向きにさせると
耳元に唇を寄せるようにして顔を近づけさせる。
それだけで、イシュタルはぎゅうっと目を瞑って
感極まってしまいユリウスのその唇から出る吐息を耳に感じながら
静かに、だが誰にも曲げる事が出来ない
絶対の忠誠溢れる決意の言葉でもって返事を返すのである。
 
「分かりました、では早速……。」
 
Part2へ続く

『暗夜王国の影』Part2

ファイアーエムブレムif 二次創作SS『暗夜王国の影』Part2

 

「物乞いには、通常は組織があってその元締めが
末端の稼ぎを厳しく管理しているの。
それで、稼ぎが少ない弱者……特に子供はより稼げるように
大人に片腕か片足を斬り落とされ……時には顔の半分に焼けた鉄杭を
押し付けられて不具にされる場合がある。
その方がより、憐れみを誘い同情を引き易いから」

マークスは眉間に皺を寄せて、神妙に聞いて居た。

 

「私に出来る事は少ないが……」

彼は立ち止まって、近づき懐の財布から銀貨を出すと大人と子供が入り混じった
数人の物乞いの前に置かれた欠けた食器にチャリ、と順番に入れて行く。

物乞い達は、おおっ!とどよめきを上げて
身なりの整ったマークスを感謝の眼差しで見上げて居た。


マークスは続けて

「……それで何か美味しい食べ物でも買うといい」

そう言うとベルカを伴って静かに道を進んで行く。
銀貨数枚は、彼らにとっては明らかに大金で
当分の間は手足を斬られると言う事は無いだろうと言うのは
ベルカにも分かった。しかし……

 

「マークス様、それは根本的な解決にはならないわ。

この街中に物乞いはまだまだ居る。

それでも彼らは、物乞いであるだけまだ幸せな方。
食うに困った親は、息子を非正規の劣悪な環境の
炭鉱に送り死ぬまで過酷な労働を強いる。
娘は12歳になれば売春宿に売られ娼婦として働かされるの。
街では、麻薬の売人が隠れて商売をし、引ったくりに
詐欺、快楽殺人、強盗……ここは治安が乱れに乱れた最下層の場所。
私が、あなたに見せたくなかったのはここが最悪の場所だから」

「それでも、お前が生まれた場所なのだろう?
最悪だったとしても、故郷なのだろう?」

厳しく見える表情で、しかし言葉には優しさを込めて
マークスが問いかける。

「……ええ。そうよ。」

「ならば未来の伴侶の私にとっても故郷だ。
……ただ、貧民街で暮らしていく術は当然分からんがな」

「……マークス様」

ベルカは、マークスの言葉を聞いてまた心の中がもぞもぞと動き出した。
何と王子は不思議な男なのだろうか。
この想いを口にするならば……

 

「あなたは不思議な人ね、清濁併せ飲む……
そして光も闇も受け入れる……この国の跡継ぎとして
相応しいのはあなたしか居ないのかもしれないわ」

「それは当然の事だ。
常に、暗夜王国の表面も裏も見て居るつもりだからな。
今日、ここに来て思った事を言うぞ。
私が王になった暁には貧困に喘ぐ人々に対して何らかの施策を
する事を約束する。……人間が人間らしく生きられるよう、
国民が苦しむ事無く笑顔になるように。そして王たる私の隣には何時でも
お前に居て欲しいのだ」

「そうね、貧民街の情報や実情を伝えるのは私に任せて。
そしてありとあらゆる闇を見せるわ。」

 

(私のように暗殺者としてしか、生きる道がなかった
子供が一人でも居なくなるのなら……)

 

初めて、ベルカは僅かに信頼の灯った瞳の色をマークスへ向けた。
マークスは、その気持ちをしっかりと受け取り
ベルカの腰に手をゆっくりと回すようにして引き寄せる。

 

傍から見て睦まじいカップルに見える2人は並んで貧民街を
隅々まで歩く。貧しさから抜け出せない人にも生活はあり、
彼らなり生きているのだと貧民街は語っていた。

 

ベルカは、一緒に歩きながら
暗夜王国の夜明けは、案外近いのかもしれないと静かに思った。


~~~終わり~~

『暗夜王国の影』Part1

ファイアーエムブレムif 二次創作SS『暗夜王国の影』Part1

 

ベルカは、まだ信じられずに居た。
数日前に、暗夜王国の第一王子マークスから
正式にプロポーズを受けた事を。
だが、これは現実だ。
自分の指に白く輝く婚約指輪がそれを示してる。

その美しい輝きをじっと見ながら顔を俯かせていた。

 

生まれた時から、親兄弟の顔すら知らず
物心がついてからはずっと暗殺稼業をして生きて来た。
10歳の頃には、既に他者を殺め、その事実に最早
何の感情も抱かない。非情の殺し屋ベルカ、と

呼ばれ恐れられて来た。

 

女らしい所は一つも無く、極めて淡々と
仕事をこなしそして仲間内の人間関係ですら
常に一種の緊張感と共にあり……そんな日々を送って来た。
正直、最初はマークス王子の冗談か何かだと思って居た。

しかし、王子は冗談を言うような人柄には見えなかった。
とても真剣な面持ちで言ってくれたのだった。

『家族を知らないなら、これから私と家族になればいい』と。

それは、真っ直ぐなプロポーズであり
ベルカは人を殺した時よりもはるかに動揺してしまった。
ただ、暗殺者の常かその動揺は表情には出ず
自分の心の内を晒け出す事も無く
指輪は静かに受け取った。

 

今では自分の心の状態がよく分からない、私はマークス様の
事が好きなのか分からない……しかし悪い気持ちでは無い。
今まで感じた事のない何か暖かさのような
くすぐったいような気持ちだけが漠然と心に宿っているのだ。

 

薄い水色の細い髪質の髪を掻き上げて部屋で
窓の外を見て居た。

マークス王子は、指輪を渡して来る時同時にこうも言ったのだ。
『お前の生まれ育った場所、貧民街を一度見てみたい、お前の全てを知りたい』と。

貧民街出身のベルカでこそ、あの荒んだ光景は慣れた物だったが
まさか第一王子が足を踏み入れる場所でも無い、と
最初は止めた物だ。
しかし、マークスの意志はとても強く
どうしても見に行きたいのだ、と時間を作って
明日貧民街へと案内をする事になった。

 

明日は、雨が降らなければいいが……とベルカは窓の向こうに見える
どんよりとした街並みを見て居た。
今はカムイの城を離れ、暗夜王国の一角にある宿の一室に居る。
マークスは同室で、と言って来たが流石にそれは断って
一人落ち着く小さな個室で身を休めて居た。
こう言う日は、早く寝てしまうに限る。
形としてすら成って居ない孤独や虚しさを感じて居た今までと違って
良い夢が見られそうだが。

 

何事も無く、次の日となりベルカはマークスと2人で久々に
出身街の土を踏む。


『そこ』は、相変わらずだった。
汚い建材がそこら中に乱雑に積み上がり、道は舗装されて
おらずでこぼことして非常に歩きにくい。

立ち並ぶ家もボロボロでお世辞にも外観は美しいとは言えず
その家の軒先で物乞いが数人座って居た。
ベルカは、ちらりと横目で見て物乞いをしている子供の

手足を密かにチェックする。

剥き出しの足は、泥で汚れて居た物の丈夫そうだった。
無意識に軽く息を吐くと隣のマークス王子が、不思議そうに
首を傾げて居た。

 

「そんなにあの子供の事が気になるのか?」
それについて正直に答えるべきか迷ったが、逡巡は一瞬の事で
ベルカは小声で訳を語る。

 

Part2へ続く

兄妹Part2(ファイアーエムブレム聖戦の系譜SS)

「しょうがないわね!じゃあ出かける前に
あたしの特製のお弁当つくったげるから
向こうで食べるのよ!」

あたしはわざわざ作った笑顔でそう言った。
兄貴はちょっと困った顔をして
「お前は女らしくないくせに料理だけはうまいからな。
弁当作る間だけ待つか」

と呟いた。
「兄貴、つけあわせの野菜を畑から
とってきて!早くね!」
「へいへい。」
兄貴はダッシュで畑まで飛んで行った。

あたしは修道院の中にある小さな台所に入った。
同居人の孤児の一人が不安そうにこちらへかけてくる。
「パティねえちゃん、ファバルにいちゃん、また
戦争にいくの?」
先日6歳になったばかりのカレンだ。
いまにも泣きそうな顔をして
こちらを見上げている。
あたしまで泣きそうになるのを
こらえて笑顔をつくった。
「そうだよ。兄貴はまた傭兵のお仕事で
出かけるんだ。」
それを聞いて泣き出すカレン。
「せっかくにいちゃん帰ってきたのにまた
いなくなるの?いやだー、いやだよー。」
その泣き声があまりにも大きいので
周りから他の子たちが大勢集まってくる。
「カレン、なんで泣いてるんだ。」
「ねえちゃんが泣かせたんだなー。」
口々にいう孤児たち。あたしは
弱気な心をみせまいと精一杯虚勢をはる。
「あのね、兄貴がまたお仕事に行くんだ。
カレンはその事で泣いてるんだよ。」
と言った。
そこへひょっこり兄貴が台所へ入ってくる。
「おーいパティ、野菜はこれでいいか?あれ?
なんでみんな集まってるんだ?」
きょとんとした顔でこちらを見る兄貴。
「ファバルにいちゃんー」
孤児のみんなが泣きそうな顔で
(中には既に泣いている子も居た)ファバルを囲む。
「パティ、この子らに俺の事話したな?」
困ったような表情で孤児たちにすがりつかれて
途方にくれている。
「みんな、泣かないの!うちの兄貴は強いんだから!
ぜったいぜったい、死なないんだから!」
あたしは笑顔でピースサインを作った。
「ほんと?ファバルにいちゃん、また帰ってくる?」
「居なくならない?僕らのパパとママにみたいに」
孤児たちが泣き顔で口々にいう。
「ああ、俺は絶対に、死んだりしない!
必ずお前たちのとこに帰ってくるからさ!
だから泣き止めよ。な?」
兄貴は野菜を台所の皿の中に放り込んで
孤児たちの頭を順番になでた。
そうだよ、兄貴は死んだりしないよね?
だってあたしの自慢の兄貴だもんね!

=FIN=

兄妹 Part1(ファイアーエムブレム聖戦の系譜SS)

これはとある修道院でのとある兄妹のお話。

あたしは修道院を囲む塀の上で寝そべって
今日の稼ぎを品定めしていた。
「パティ、お前また盗みをしてるなー!」
下からよく知った声が聞こえる。
あたしと一緒の黄金の髪を持った
小柄な少年、うちの兄貴のファバルである。
「うっさいわね!修道院の孤児たちを
養う為だもん、仕方がないでしょ!」
いつもの表情で真下にいる兄貴を
どなりつけた。
「まったく、盗賊まがいの事をして……!
金なら俺が稼ぐっていつも言っているだろ!」
兄貴はああいっていつも怒るけど本当はこっちの
ことを心配してくれて怒ってるんだって分かる。
だって仕方ないもん。あたしが稼がないと
兄貴が狩人の傭兵の募集先で何日も帰って来なくて
そこで死んじゃう可能性だってあるんだもん!
だからあたしは盗賊としての道を選んだ。
だれにも文句は言わせない。
「パティー!!降りてこいって!顔をつきあわせないと
話もできないぞ!」
兄貴があんまり怒るんであたしは品定めしていた
金貨を袋にしまって塀からぴょーんと飛び降りる。綺麗に足を揃えて着地。
「はいはい、兄貴!これでいいんでしょ」
まったく兄貴は心配性で困る。
あたし一人でだって孤児のみんなのご飯代や服代を

稼げるんだから!
「で、そのかっこまた傭兵として戦にいくのね?」
兄貴は戦装束に愛用の弓を携えて
真剣な面持ちでこちらをみている。
「そうだ、だからお前に挨拶に来たんだぜ」
「で、今度は何ヶ月帰って来ないのよ?」
「今度の戦争は長引くからさ。予定は分からないんだよ」
「まったくー何よーそれ!」
あたしはマジでキレた!
両親だって行方不明だしたった一人の肉親の兄貴ですら
この調子で一緒にも居てもくれない。
数年前はよくわがままをいって泣いたものだ。
だけど、兄貴はいつもこう言って出て行った。
「お金の心配をお前にはさせたくない。
だから俺は戦うんだ。後、留守をを任せられるのは
お前にしか頼めないことだから。
ついてくるなんてわがまま言うんじゃねえ。」と。

 

Part2へ続く

風のフォルセティ(ファイアーエムブレム聖戦の系譜SS)

熱き炎の雨が降ってくる。
じり、じりとそれは頬を焦がした。
後頭部が焦げたように熱い。
心なしか手足の感覚がなくなるような錯覚さえ覚える。
レヴィンは、フォルセティの魔法書を前にかざしながら
懸命に前へと進んだ。
 
ここで死ぬ訳にはいかない。
俺にはやるべきことがある。
その一心で歩を進めていくと前から炎の魔道書を
前に突き出しながらこちらへ向かってくるマージの一団が見えた。
とどめを刺すつもりか!
炎と風では不利かもしれない。
まだそんなことを考える余裕を持ちながらもレヴィンは頬をゆがませ
フォルセティを唱えた。
 
 
バサッ、ゴウゥウーーーーー!
すさまじい轟音とともに神器の風が放たれる。
マージ達が吹き飛んでいくのが見え、同時にぐらりと
レヴィンの体が揺れた。近くに落ちた燃え盛る隕石の火の粉を
まともにくらって膝をついたのだ。どこか近くで味方の物らしき
絶叫が聞こえた。ゴオ、ゴオと視界が真っ赤な炎に包まれる。
 
ユラ、とそれは前兆も無く現れた。
レヴィンの前に現れたものは最初は霧のような朧な姿をしており、
徐々にその形を成していった。
それは、巨大な龍だった。
「レヴィン。起きるのだ。レヴィン。」
若い男の声が聞こえ、ハッと身を起こすとレヴィンはその龍の背に乗り
風のように戦場を後にしていた。
「聞こえるか。私の声が。我が名はフォルセティ。風を司る龍族なり。」
……!
身じろぎをして吃驚したように龍を見ると、レヴィンは笑い出した。
「ハハハ、ダーナ砦に光臨したという伝説の!?参ったな。俺は夢を見ているのか。」
「否、これは夢では無い。風の申し子レヴィン、お前に力を貸そう。」
フォルセティはおごそかな声で静かにそういうと優雅に空を飛翔した。
雲の中を飛び、そしてまばゆいばかりの光の下を翔る。
「俺に力を……か。ありがたいが伝承では龍族は人間に干渉してはならないんじゃないのか。」
そう問うとレヴィンは訝し気に首を傾げた。
ふわりと空中を漂う浮遊感に慣れぬのかしきりに姿勢を動かしながらフォルセティの次の言葉を待つ。
「そのためのゲッシュなのだ。私はお前を助ける。お前は私に記憶の全てを託す。全ては次世代を導くがゆえに」
力強く、そう告げる龍。
「お前は本来ならばあの場で死んでいた。既にお前は歴史からは居なくなった者なのだよ。
だからこそ、その記憶と体を私が譲り受ける。」
「この世に存在しない者と言う訳か。記憶を託したらどうなるんだ?」
「お前自身の記憶は残るが、それに関しては一切触れてはならぬ、と
約束して欲しい。
……家族もなかったことになる。それ以外の選択肢は無い。」
「そうか。じゃああんたに託す。」
さっぱりとした顔でレヴィンは風の魔道書フォルセティを前にかざすと頷いた。
最後のレヴィン本人の記憶は、愛する妻と子供達の温かく心に光が灯るような笑顔。
それはきらきらと眩く輝き、次の瞬間緩やかに飛散した。
 
~終わり~