徒然の都

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ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編2 Part1

ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編2

 『第12章・楽園の歌声Another』Part1

 

ミューズ公国。漸く養父のガロン王からの
命令をこなし、カムイ王女達はこの国まで
辿り着いた。
白く高い建物がきちんと並び、所々に用水路が設けられ
整然と並ぶ美しい街並み。
本日ガロン王は、暗夜王国の少数精鋭の部下を連れて
この国まで来るそうだ。
ガロン王は、非常に歌劇ショーが好きでこれまでに何度か
ここに足を運んでいる。白夜王国暗夜王国は戦いの最中と言え
ミューズ公国のアミュージアと言う地域は、中立地帯なので身の危険は極めて少ない
と言う事である。

アミュージア市の中央には、オペラ劇場にしてカリオペと呼ばれる豪華絢爛で
白を基調とした非常に大きな建物がある。
ここでは、名だたる歌姫やオペラ役者が招かれ人々の前で
歌い、踊り天上の祭り、と比喩される程の美と芸術の娯楽を
鑑賞する人々に提供するのだ。

ガロン王が来る時は、必ず大きなショーが開かれ
選りすぐりの歌姫が出演する。
この日、やはりショーのプログラムがありガロン王の為に
しつらえられている特上の席の飾りつけが行われて居た。

一方その頃、劇場の舞台裏では王女アクアが
何やら行動をして居た。
今回の出演者、歌姫達の部屋にこっそり忍び込み
さも自分もショーに出る一員である、と言う顔をして
紛れ込んで居た。
ただ、プログラムと出演者はあらかじめ決まって居るので
自分が飛び入りで参加するのは厳しいかも知れなかった。
アクアが、ここに居る理由……それは義父のガロン王の身を縛る呪い的な
物を解く為だ。ガロン王が既に死んでいて、その体と精神は
何者かに操られている……と言う事を知っているのは今の所アクア一人である。
アクアは、ぎゅっと胸元のペンダントを握り締め何とか舞台に上がる
方法を考えて居た。

「あら、見ない顔ね?」

目のラインを強調するけばけばしい化粧をして美しい薄絹を纏った歌姫の一人が
側に近づいて来た。

「えぇと……私は補欠の歌手で、いざと言う時の皆さんの代わりなの。
でも、私はこの劇場で一度ソロで歌ってみたいわ。
だからどなたか私と出番を変わってくれませんか?」

それを聞いて数人居た歌姫は揃ってくすくすと笑った。

「そうやってガロン王に取り入るつもりなんでしょう?
何しろ私達にとって王族や貴族のパトロンが付いて援助金を貰えるのは
至極名誉な事ですからね。
補欠なら補欠らしく、おとなしくしておいで。さも無いと……」

その部屋へ劇場を取り仕切る支配人が入って来る。

「何事かね?」
「支配人さん?この子がソロで舞台に出て見たいと
生意気な口を……」

告げ口するように伝えれば支配人の男はぎょろりと大きな目を
アクアに向けた。
口元と鼻筋を覆う黒のヴェールで半分顔を隠し、腰回りに大きくスリットの入った黒の
歌姫の衣装を着たアクアの謎めいた美しさを目の当たりにして
支配人はうーん、と唸る。

「駄目でしょうか?」

アクアは、今度は支配人の方へ眼を向け縋るように聞いて見た。

「まずは実力を知らないとねぇ、君ここで少し歌って見なさい」
「はい」

アクアは胸の前に右腕を置き、目を瞑り歌を歌い始めた。

旋律だけのそれは、何処か悲し気で聞く者の心を揺さぶるようだ。
その場に居る者の心を打ち、誰もが魅了されてしまう
程の代物だ。悲しくも透き通った歌声。
実力は十分、否この場に居るどの歌姫よりも遙かに芸術性のある
その歌に支配人は軽くぱちぱちと拍手を送り、そして告げる。

「マコナ、君が補欠に回りこの子をソロで舞台にあげてやれ」
「こんな名前も素性も分からない子に!?」
「芸術の世界は実力が全てだ、君も今聞いただろう?素晴らしかったじゃないか」

マコナと呼ばれた歌姫はしぶしぶ言う通りにするしかなかった。

「ありがとう御座います。マコナさん、すみません……」

アクアがマコナの方を向き申し訳なさそうにすると
彼女は

「貴女の歌声は素晴らしいと認めるけれどせいぜい舞台の上で緊張のあまり
失敗しないように!ふふっ」

と先輩風を吹かすのであった。

そして一時間が経ち、ショーが始まる時間となった。
アクアの出番はプログラムのニ番目だ。
一番目の歌は前座でありすぐに終わるのでもう舞台裏でスタンバイをして居る。
そして、出番が来て裏から表へと優雅に歩いて行く。

白い柱と白い大理石の床、そこには目の覚めるような真紅の絨毯が広げられて居る。
上から魔法によるスポットライトが照射し、前方を見ると
観客席に該当する場所は、人工の川になっておりそこに観客が
乗る為の小舟が幾つも幾つも浮かべられて居る。
観客席側の明かりは、船の先に付けられた小さなカンテラのそれのみ、
川の揺らぎに心地良く揺られながらショーを楽しむと言う趣向となって居た。

舞台の真ん中でアクアは、ペンダントに己の力を籠めるように手を添えて
観客席の方に僅かに視線を送った。
居る。遥か遠くでは警護の部下を数人従えたガロン王が小舟の上でこちらを見て居た。

やがてドラムをメインとした暗夜調の曲が流れ始める。

それに合わせてアクアが踊り、舞う。

 

Part2へ続く