徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

ファイアーエムブレムif  二次創作小説・暗夜王国編2 Part2

ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編2 Part2

『第12章・楽園の歌声Another』Part2

 

『闇へとー、進みゆくー♪』

ひらひらと腕をしなやかに舞わせながらはっきりとした良く通る声で
歌って行く。

『虚ろな白亜の王座、己を、全てを欺いてー♪』

そしてアクアの指先から透明の水のような物がしたたりそれは
徐々に水量を多くし激しく舞う手の先から流れ宙に弧を描いて行く。

『紡ぐ理(ことわり)、黒曜鈍く崩れ落ちて、光去り行く黄昏ー♪独り、思う♪』

最初にその異変に気が付いたのは、王の斜め後ろに控えて居た軍師のマクベスだ。

「ぐ、ぐぬぬぬぅ。……ぐっ……」

低い声で唸り苦しむような素振りを見せるガロン王の背中に軽く手を置き
そして

「ど、どうなさいましたか?ガロン王様!」

舞台のアクアから発せられた水は舞台を中心に放射状になって舞い、
ガロン達の居る船までにもそれは届いて居たのである。
だが、その水の軌跡を肉眼で見る事が出来るのはアクアのみ。

「ぐ、ぐぐぐぐっ……!」

ガロン王は、元々土気色をした顔色をドス黒くさせては
苦しんで居たが、
その間にアクアの出番は終わり、素早く姿は表舞台から消えて居た。

「ひぃぃぃっ、部下の皆さん。ガロン王様を安全な所へ。
王が苦しんだのは明らかに歌姫の仕業です。
呪いか何かかもしれません、ただちに舞台裏を捜索し
歌姫共を全員捕まえてやりなさい!」

ガロン王を助け起こしながらもマクベスは兵士に
そう命令して行く。

観客席では、カムイも義弟のレオンと一緒に見て居た。
が、何故か二人とも舞台の歌姫がアクアと気が付く事は無かった。
否、誰もその歌姫の正体は分からず忽然と舞台裏からもその姿が
消えて居たのである……。

「何か、お父様に異変があったのでしょうか?」

隣に座るレオン王子に告げると、レオンは事情を聴いて来ると
言い残し小舟から小舟へひょいっと飛んでガロン王の
近くまで行ってしまった。
その後、入れ替わりに白い何時もの衣装に着替えたアクアが
何食わぬ顔でカムイの方へと近づいて来る。

「あれ、アクアさん。姿が見えなかったですが
今までどちらに?」
「ええ、気分が優れなくてここの医務室で休ませて貰って居たの。
もう大丈夫よ」

そして、アクアはちらっとガロン王の居るであろう小船の方角をさりげなく確認して居た。
呪いは解けなかった……、それは残念だけど。
ガロン王の生前の心を呼び戻すのは結果的に失敗はしたが
どのタイミングでそれをカムイに言うか……勿論今この場では
言えないし、言えば自分は泡となって消えてしまうのだが。

王族に異変が起きた、と言う事でショーは急遽中止となり
劇場内では軍属の兵士達が縦横無尽に闊歩し一転して物々しい雰囲気となった。

マクベスが、歌姫を縛り上げて口を割らせると言って居るみたいだ。
カムイ姉さん、どうする?」
「心配です……。今からお父様の所に行きたいけれど、それを許して下さるでしょうか?」

レオンとカムイがそう話し合って居ると、突然向こう側の小舟の中から
派手な装束と顔を半分覆う鬼を模したお面を付けた巨躯の老人が出て来る。
身なりから察するに白夜王国出身の者だと見て間違い無い。

「へへ、何やら相当慌てて居るようだな?暗夜の者共よ!」

にやり、と不敵な笑みを見せる男はさっと手を振ると周囲の小船の中から
わらわらと白夜兵が出て来る!

「そこをどけ、この戦争を終わらせる為に我ら白夜がガロン王を始末する」

「そんな事、本当に出来ると思って居るのか?」

巨躯の老人に対してレオンが牽制するようにそう言った。
顔付きは双方とも厳しく、レオンに至っては既に懐から分厚い魔道書を
取り出して構えて居た。

白夜王国の兵よ、お前達が歌姫を雇って父上を呪わせようとしてたんだな!?」

「何、歌姫だと?呪い?何の事だッ!」

問いただすと、老人は一瞬不思議そうな顔をするも次の瞬間元の傲岸不遜な
態度に戻り

「言いがかりを付けて我らを悪者に仕立てようとする等、流石暗夜の者は
やり口が汚いな!良かろう、お前達から先に始末してその後じっくりと
ガロン王を屠るのみ!いざ、クマゲラ参るッ」

クマゲラは、ぶんぶんと自分の体の三分の二程もある長い金棒を振り回して
船から船へと飛び移り渡って来る。

「ここは中立地帯の筈なのに何故、こんな……」

言いかけるカムイの前で彼女を守るようにしながらレオンは
魔道書を開き魔法を紡ぎ始める。

その後ろでアクアが、槍を構え援護しようとして居た。

と、突然全く違う方向から何やら喧噪が聞こえて来る。

「わわっ、こいつ!?」

兵士が槍で必死に突こうとして来るのを潜り抜け一人の獣の耳と
尻尾を持った男がぴょんぴょんと小舟から小舟に渡り

一目散に逃げ惑って居る。

だん!と小舟の上で足を踏ん張り一旦止まるとクマゲラ
何事かッ!と背後の部下に大声で聞く。

「それが、この劇場に所属不明の不審な獣人が紛れ込んで居まして
捕まえようとして居るのですがなかなか素早く……」

そして次の瞬間、レオンの魔法が完成し……どん!とそれにぶち当たり
クマゲラが吹き飛ばされる。

「おわあっ!?」

衝撃で小船二つ分ぐら吹っ飛ばされ危うく水の中に叩き落されたかに
思えたクマゲラだったが持っている金棒をつっかえ棒代わりにして
何とか態勢を整え忌々しそうに片方の目の部分だけ開いたお面の隙間から
ぎろり、とレオンを睨み付けた。

直ぐ後に、二発、三発と魔法がぶち込まれ白夜兵側に動揺が走る。

 

「何ぼうっとしているんだよ?姉さん。今の内に
獣人を助けに行って来なよ」

「は、はい……!」

「待って、カムイ。私も行くわ」

 

カムイと陣を組んで、アクアは救助に向かう。
しかしその心は、重かった。
今頃、舞台裏では罪の無い歌姫達が暗夜兵に脅されながら捕まって居る事だろう。
酷い目に遭って無いだろうか?
マコナは無事だろうか、私のせいで……ごめんなさい。
それでも、前に進むしかない。
今は、ただ前へ。

 

その後、劇場内に迷い込んできた獣人フランネル
無事助けた一行は白夜王国兵の襲撃を制し
その場を収める事に成功する。

小船や、舞台の上には火魔法による焦げ跡や
槍や剣で突いたような穴が沢山出来てしまった。
これらは後日きちんと修復され、変わらずオペラ劇場は
そこにあるのだ。

 

~終わり~