徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

ベルウィックサーガ・7週目ミニ小説・第十ニ章「闇の司教」~another side~

それは彼女にとって悪夢のような一日だった。
突然の、黒服の男達の乱入。
数十名の黒服達が巫女の神殿に押し入ってきた時には
最初は何事かと思ったが彼らが身に着けている紋章を
見て、パラミティースは思わず顔を強張らせた。


ラーゼンクロー、ラーズ教団でも最強と呼ばれる
無慈悲な死の僧兵達。
大挙して押し寄せてきた男達は、
手にダークメイスと呼ばれる刃先の尖った
黒の鈍器を持ちその力強い腕で

次々と修道女達を捕らえていく。
その中には、
シスターマリアやシスターイゼルナの姿もあった。


そして、神官長クエスクリアまでも
僧兵に捕らえられると
今度は奥の間に居る巫女を探せ!とばかりに
僧兵達は後から乗り込んできたラーズ兵達と
協力して奥へと踏み進む。


パラミティースは、一応武装はしていたが
他の修道女と変わらぬ装束で身を包んでいた為に

僧兵達に無抵抗で捕らえられるに
至った。

だが、それで僧兵達を安心させる事が出来たのか、
兵士へと身柄を引き渡される直前にクエスクリアと
僅かばかり話す事が出来た。

 

「パラミティース…貴女は城に戻りこの事をルボウ様に伝え…。」

 

遣り取りは短かったが、パラミティースは軽く頷くと

自分を押さえつけている
僧兵が油断している隙にその体を掴み軽々と捻りあげ
投げ飛ばす。

 

「お、おい!待て!」

 

周囲が混乱している隙に何とか馬小屋まで走り
自分の愛馬に跨ると神殿を後にする事が出来た。
しかし本来、巫女様をお守りする立場の自分が
一人おめおめと逃亡するなどと言う事は
心が痛む出来事であった。
十数年前のあの日もシャインナイトの粛清と
称して行われた虐殺の中でも
自分は一人逃げ延びたのだった。


(サフィア様…、必ず戻って参ります。)

 

馬を駆り、深い森を抜けるとパラミティースは
一身にナルヴィア城を目指す。

 

 

やがて深い森を抜けると、視界一杯に田園風景
が広がる。
黄金の麦穂は、風に揺れ昼下がりの暖かな
風が吹いてきた。

 

だが、今はその光景に見惚れている場合ではない。
自分には使命があるのだ。

 

それから数時間後にパラミティースは
ナルヴィア城へと入場した。
門に立つ兵士達に事情を説明し、
ルボウ司祭と会う約束を取り付ける。
ルボウは、多忙の身であったのだが
緊急の要件との事で
早速会ってくれた。

 

パラミティースは、恭しく一礼した後に
ルボウに今までの経緯を話す。
ラーゼンクローとラーズ兵達の襲撃。
修道女と司祭長、巫女様が捕らわれの身になった事。
自分はそれを伝えよと、クエスクリアから命令をされた事。

 

「巫女様が誘拐…なるほど、
分かった。ウォルケンス王には内密にしておき
誰かを派遣させる事としよう。」

 

ルボウは顔を真っ青にしてそう言うと
パラミティースに一度下がるように伝える。

パラミティースは、ルボウ司祭の
判断を全面的に信頼していたから
首を縦に降りまた一礼して
控え室へと下がっていく。


控え室では、簡素なテーブルと椅子が
置かれ部屋の外では衛兵が立っている。
パラミティースは浮かぬ顔をしながら
ルボウの部下からの連絡を待った。
椅子に座り膝にきっちりと両手を置いて
座るその姿は、何処から見ても律儀な
女騎士その物。


黒く長い髪は、なだらかなウェーブを描いており
その黒髪に緑の衣と薄紫のマントが映えていた。
高い位置にある窓から外を見ると、
時刻は夕刻へと移り変わりつつあり
黒いカラスのような鳥が群れを成して
飛んでいくのが見えた。

 

そして数十分後に漸く
ルボウの部下と思わしき聖職者が
パラミティースの待つ部屋に
入ってきた。

その聖職者曰く、
「今から共にルボウ司祭の自室に来て欲しい。」と。
話を詳しく聞くと、どうやらルボウはリース公子に
巫女様を助ける助力を乞うたらしいのだ。

 

(リース公子なら、信頼出来る…
ルボウ様のお考えは間違い無い。)

 

と僅かばかり安堵の息を零すパラミティース。
きちんと背筋を伸ばして
聖職者に礼を言うと、彼の後ろに付いて歩き
ルボウとリースの待つ場所へと移動するのであった。

 


一方その頃のサフィア達は…。
布で猿轡をはめさせられ馬に乗せられた挙句、
巫女の神殿から遠い見知らぬ場所へと移送されている
途中だった。

サフィアの、目は涙で潤み予期せぬこの事態に
動揺を隠せず…だが抵抗が出来ないままに
僧兵団ラーゼンクローの成すがままに
馬上で揺られていた。

 

彼らの目指す先は、巫女の神殿がある森から
遙か遠く、西方の地にある森ダナエと
呼ばれる所であった。
そこには古代ラズベリア人が遺した神殿跡が
あると言われている。

 

ラーズ僧兵団がこれから行おうとしている
事は鬼畜にも劣る所業だ。
即ち、ヴェリア王国の象徴である
サフィアを生きたまま火炙りにする事。
それに伴い、ヴェリアの修道女達を生贄に
捧げる事も行うつもりである。

 

生贄の儀式は古代の方式にのっとり
祭壇の上に修道女を寝かせて
喉元を銀の短剣で一突きにすると言う
非常に野蛮な物である。

 

時代錯誤とも呼べるその行為は、
だがしかしラーズ教を妄信する
ラーゼンクロー達にとっては
非常に神聖な行為として映っているのだろう。
その証拠に、巫女達を搬送する男達の
顔には皆一様に恍惚とも呼べる表情が
窺えるのだから。

 

 

サフィア、そしてクエスクリア、
イゼルナにシスターマリア達は
これから行われる事を知ることは出来なかったが
何か身に大きな危険を
感じていたのである。

 

(助けて。パラミティース…。リース様!
ああ、リース様ならこんな時
真っ先に助けに来てくださるのに。)

 

サフィアは青ざめた顔付きでそう心の中で
何回も何回も繰り返し祈っていた。
奇しくも、明日9月15日は
サナーキアこと、サフィアの16歳の誕生日なのである。
代々巫女の家系は16歳になると
一人前の神聖な力を授かるとされていた。
それが、ラーズ教団には脅威なのであろうか
先手を打ってこうして捕らわれてしまった
次第である。

 

 

不安な心境の中、時は夕刻へと。
そして夜が来ようとして居た。

そしてダナエの森では、侵入者を
身包み剥ごうと画策する暗殺者達や
先行して侵入者を撃退するために
守りを固めている装甲兵等が
うろついている。
そして神殿跡の祭壇には、
黒いローブに身を包み
暗黒魔法を携えた
ラーズの高司教達が続々と
集いつつあった…。

 


誕生日である明日の日までは最早猶予も無い。
果たしてリース達シノン騎士団は巫女達を
無事助けるの事が出来るのだろうか?
数々の戦いを切り抜けてきたリース達なら
やってくれるだろう、と関係者は
皆期待していた。
その期待に応えるべくリース達は馬を駆り、そして…。

 

 

~~~終~~~