徒然の都

ベルウィックサーガ、ファイアーエムブレム聖戦の系譜&if、過去のSS置き場。

ベルウィックサーガ二次創作小説「戦火の中の願い」

 心臓がドクン、と大きく跳ねた。
 少女が所属するのはレプロン市に迫る帝国弓部隊の小隊である。
 戦争をする、と言う事は人を殺す事──武器を取り、
武器を構えて命を奪う。
 そんな事が本当に出来るのだろうか、と。
 以前山賊狩りを命じられた事があった。 

 その時、山賊の一人の眉間を撃ち抜いたその事実に自分は震えたのだった。
 少女ソフィーは、帝国の新兵器である
パスカニオンと呼ばれる弩のテスト兵である。
 強力無比な性能を持つパスカニオンだが、試作途中なので
欠陥があり時折暴発しては、次々にテスト兵が事故に巻き込まれていた。

(今から、残党兵を狩るのね)

 ソフィーは憂鬱な内面を漏らすまい、と無表情を装って
いたが彼女の姿は誰がどう見ても緊張と悲しみを湛えている
ように見える。
 あらかじめ聞かされていたのは、逃げ遅れた市民を助ける為に
ヴェリア国の騎士の部隊が出動している事。
 場合によっては、市民を殺害。又は捕縛しても構わない事。
 ソフィーは、出来れば無抵抗の者を手にかけたくなかった。
 そして敵とは言え、ヴェリアの騎士も──。
 しかしそんな甘い理屈が通用する筈も無い。

 しっかり自分の役目を果たさなければ、従姉のルーヴェルに
激しく罵られ力一杯頬をぶたれる。
頬の痛みはどうでもいい、心が痛むのだ。
 レプロン市は、たちまち帝国兵士に蹂躙されあちこちで
火の手が上がっていた。

「おい、そこの」

 同僚騎士の低い男の声が鎧兜の隙間から聞こえた。

「はい、私でしょうか?」

「確かパスカニオンのテスト兵だったな?
そんな所でぼーっと立ってないで怪我人を後方に
運んでくれ」

「は、はい……!」

 何故か内心でほっとしながらソフィーは、足元を
ふらつかせる自軍の兵士の元へ駆け寄り肩を貸す。

「それでは、パスカニオンのテストは……?」

「そんなのは適当でいい。レプロンは、既に帝国兵が
占拠しつつある。
傷病兵を速やかに治療させるのが、この小隊の第二の任務だ。
俺も手伝うから」

 ソフィーは、その兵士の言葉に内心ほっと胸を
撫でおろした。
 パスカニオンがまだ欠陥品で、暴発の危険があったから
それを使わなくて済んで安堵したのでは無い。
 無辜の民、或いは敵の兵士に武器を向けなくて済んだからだ。

 ソフィー達は、後方のキャンプ地へ戻って行く。
森を通る時、耳聡く誰かが木の葉を踏む音が聞こえて来た。

「残党かもしれません。私が見て来ます。
貴方は、なるべく音を立てずにキャンプへ進んでください」

 ソフィーは、パスカニオンを構えると木の影を利用して相手の
死角から目を凝らした。

 視界には、猟師風の金髪の青年が、困った風に
とぼとぼと歩くのが見える。
 服装は、簡素な胸当てを付け背中には弓を背負っている。
 猟師なのだろうか、それともヴェリア軍だろうか。
 判別は付かないが帝国兵の鎧を纏って居ないから雰囲気からし
後者なのだろう、と。
 ソフィーはパスカニオンを構え照準を合わせてから
その男の前にゆっくりと歩み寄った。

「弓を、捨てなさい」

 男がぎょっとした風に、こちらを眺めて来る。

相手も弓を構えた姿勢のままで、

「木の影から見えた時にはまさかと思ったが本当に女だったとは。
参ったな、俺はこんな所でやられる訳には……」

「弓を速やかに捨てなさい」

 ソフィーの二度の警告を無視して、男が今にも
矢を放とうとした。

 それより早くパスカニオンが、火を噴き
充填されていた矢が男の肩口を掠めていった。

「そ、……んな。アリーナ……ごめん」

 ゆっくりと意識を失っていく男の口から
女性と思わしき名前が漏れた。

「そう、故郷に恋人が居るのね。だからこんな無茶を」

 完全に気を失い地面に倒れた男の元へ進み、
膝をついて怪我の様子を見る。

(良かった、致命傷では無いわ……)

 甘い考えだとは分かっていても、助けられる命は助けたい。
 ソフィーは、懐から膏薬を取り出し傷口に塗ってやる。
そして自分の白のレースのハンカチを包帯代わりに巻き付けた。

(この事を知ったら、ルーヴェルお姉様は怒るかしら)

 兵士としての覚悟があるなら、敵に情けをかけずに殺しなさい。
 そんなルーヴェルの声がソフィーにははっきりと
聞こえて来るようだった。
 だから、今日の出来事は秘密の中の秘密に。

 だけど、アリーナと言う名前を聞いた時に沸き起こった自分の
気持ちは何だろう、とソフィーは自分に問うてみた。
 恋人が居るのが羨ましかった?
 ううん、私と同じぐらいの年齢の人なら初恋や恋の体験は、もうとっくに
済んでいる筈。とは言っても自分は誰かと恋をした事は
無いけれど。

ソフィーは足早に帝国軍のキャンプ地へと移動して行く。

(名前も分からない──けど、また戦場で会う気がする。
金髪の猟師さん。その時は)

 自分にどんな顔で対峙して来るのだろう。
その時の事を想像して、ソフィーが気持ちが沈んで行った。

「早く、早くこんな凄惨な戦争は終わってください。
人と人が殺し合うのではなく──人と人が手を結びあって
助け合う。そんな世界を……」

 

 それはソフィーの小さな願い。
 そっと小さく呟いた言葉の調べは森の葉擦れの音に搔き消えた。

 

 その日、レプロン市は完全に陥落した。

 

End

生存報告

御無沙汰しています。

長かったGWも今日で終わりですね。

すこぶる元気で過ごしております、と言う生存報告と

レトロゲームの二次創作小説は最近はずっと、pixivに

投稿しております。

pixivのページ→bokoneko - pixiv

 

よろしければ遊びに来てやってください🎵

ジャンルは雑多で、一貫していませんが少しずつ不定期に文章を

投稿しております。

聖戦の系譜二次創作小説 ・「束の間の日常」

「んしょっ……」

山積みの本を抱えて、書斎からティニーが
出て来る。
ここは、コノート城。
ティニーの伯父であるブルーム王が倒された地。

今はセリス軍が、滞在し次の拠点への足掛かりとなって居た。
ティニーは一人、伯父の遺品とも言える沢山の書物を
運び出しその知的な財産を無駄にせぬよう
自室で読み耽る日が続いて居た。

ぐらぐら、と危なっかしく揺れ視界を遮る本を持ちながら前方から
誰かが来るのが見えなかった。

「おい」

ふいに声を掛けられ一瞬だけびくっと体を震わせ
次の瞬間に手元の本の山が誰かに奪われて居た。

「そんな細腕でこんな分厚い本を一人でか?手伝ってやるよ」

視界が開けると、そこには金髪碧眼の少年が居た。
ティニーの兄のアーサーと同じぐらいの年齢の
少年だ。

「あ、えっと……、ありがとう御座いますっ」

ぺこん、と軽くお辞儀をして次に不思議そうな顔になるティニー。
セリスの軍の人間なのは分かるが直接この少年と面識は無かった。

「えと、どちら様でしたっけ……」

ティニーの代わりに軽々と積みあがった書物を持つ少年は
ちょっと笑みを見せて、答える。

「俺はファバル。ブルームに雇われて居たヒットマンさ」

「ファバル、さん……」

そう言えばコノートを制圧する数日前にセリスの命を狙う
ヒットマンがこちらへ向かって居た、と言う情報はあった。
だけど、遠く離れていた場所だったので
ファバルと遭遇する事は無く今に至る。

「あの、私はティニーって言います」
「ティニー?アーサーの妹の?」
「は、はい……」
「そっか、よろしくな。じゃあこの本は何処まで運べば?」

こちらです、と先に歩いて移動すればファバルは
その後に付いて行く。

自室の前まで辿り着くと、部屋に二人で入りそれからテーブルの上に
本を置いて貰った。

「それじゃあな」
「あ、ありがとう御座います。後日お礼は必ず……」
「いいよ、別に。お節介で手伝っただけだしな」

ははっ、と笑ってファバルは行ってしまった。
ティニーは、積みあがった本を前に、テーブルの前の椅子に腰かけると
頂上の一冊を手に取った。

『雷魔法における実践戦術論』

と書かれたそれは、かび臭いような匂いのする
古めかしい本だ。
おそらくこの本を含む他の本を読破するには数日掛かるだろう。
ティニーは伯父の事を思った。

何時も厳しく多くを語らない人だったけれど、それでも私を
こうやって大事に育ててくれた。
イシュタル姉様や、イシュトー兄様はとても
仲良くしてくれた。
まるで本当の兄姉のように。
しかしそこである一人の女性の顔を思い浮かべる。
ブルームの妻であり伯母のヒルダ……
ヒルダを思い出すと途端に体が震え始める。
ヒルダは、ティニーと亡き母を嫌い陰湿な虐めをし続けて
来たのだ。
しかも、他人に気が付かれないように巧妙にかなり陰惨に。
それでどれ程泣いただろう。
辛い気持ちを重ねて来たのだろう。
悪い仕打ちは良い仕打ちの記憶を簡単に凌駕する。
ブルームの死を悼む気持ちはあっても、ヒルダのかつての行いが
ティニーを悲しくさせるのだった。

それから数日後――

ファバルの自室のドアがコンコンとノックされた。

「開いてるぞ?」
「あの、ティニーです。今からお茶会にお招きしたいと――」

時刻は丁度15時前。昼食から時間が経ち小腹が空く頃合いである。

「お茶会?随分上品なんだな」

孤児として長く暮らしてきたファバルにとってお茶会等と言う習慣は
聞き慣れない物だった。それにファバルは男だ。
一か所に集まって語らいながら甘味を
楽しむなんてガラじゃないし
喉が渇けば適当に水を飲むか、腹が空けば厨房で食事の支度をして
居る途中のをこっそり
くすねて来るか――どちらかしか発想が無かった。
それでも何か断り辛いような気配を感じてとりあえずドアから顔を出して
了承の言葉を掛ける。

「良かったです、ではお越しください」

敬語を使うティニーの態度すらくすぐったくなって、ファバルは何処か
居心地が悪そうな顔をして居た。
ティニーと一緒に連れ立って歩いて行くと、途中でパティやレスターと
すれ違いかなり好奇の目で見られる事になる。
特にパティの態度は露骨で『お兄ちゃん、やるじゃん!?』な
言葉が今にも溢れそうな程で、これは後で
根掘り葉掘り事情を聴かれるだろうな
と言う事は容易に想像がついた。

(ま、別に何もないしな?)

妹に何を聞かれようとただ、茶を一緒に飲むだけだしな、と
ファバルは気楽な気持ちでティニーと連れ立って歩く。

部屋に着くと、ふんわりと柔らかい紅茶の香りが鼻をくすぐる。
そしてセッティングされたテーブルの上には真っ白な
テーブルクロスが掛けられて居た。
その上には銀食器が置かれ、クッキーとマドレーヌが
見目好く並べられて居た。

(こう言う場はちょっと困る……)

何処か自分が場違いにも感じる空気にファバルは内心冷や汗をかくも、
ティニーに促されるままに席についた。

「こう言う時って何て言えばいいのか分からねぇ。
招いてくれてありがとう、とでも言うのか?」
「ふふっ、気楽な気持ちで紅茶を飲んでお菓子を楽しんでくだされば」
「敬語って奴は俺には要らないぜ。その、何だ、困る」

真向いに座るティニーは、その言葉にきょとんと眼を丸くして居たが
分かりました、と頷き。
立ち上がって陶磁器のティーポットを持つと
ファバルの前に置かれたカップに注いで行く。

そもそも紅茶を飲む慣習の無いファバルだったが
一口口を付けるとその美味しさにぱっと顔を明るくした。

「紅茶ってこんなに美味かったんだな!」

それを見てティニーは微笑むと自分のカップを持ち上げて
口に運んで行く。

「お口に合ったようで、嬉しいです。その、この間は
助かりました。本を運ぶのを手伝ってくれて」
「ああ、別に大した事じゃ無いさ。あんな重い本、女の子一人じゃ
無理があったからな」
「私、嬉しかったんです。私にも何か手伝える事があれば是非
言ってください」

柔らかに微笑むティニーを見て、ファバルは内心照れくさいような気持ちを
持ちながらも
大人しくクッキーを摘まんで居た。
ああ、こう言うのもたまには良いよな。とその場の暖かい雰囲気に飲まれつつ
頷く。

「もし、手伝って貰う事があればその時言うさ」
と、俺は本読まないから分からないけど、あの本は何て言うんだ?」
「フリージ家の所蔵する戦術本なんです。この間運んでくれた本は……」
「ああ、頭痛くなるからやっぱりその話は無しで。とりあえず小難しいって事だけは
分かった。ご馳走様。菓子美味かったぜ。
ティニーが焼いたのか?」

こくんと肯定し、ティニーは様子を窺うようにファバルを見て居た。
何処か小動物を思わせるその姿にファバルは和やかに微笑むと
大丈夫、美味かった!と安心させるように二度目を言った。
その言葉にようやくティニーは安堵の息を零し、喜びの溢れる顔で
笑った。

クッキーの量は少しで腹具合は完全には満たされなかった物の
ティニーと過ごす時間はそれなりに満足出来る物で。

お茶会が解散となった後に、直ぐに舞い込んでくるマンスター城へのトラキア
竜騎士襲撃の知らせだ。
慌ただしく戦支度をするセリス軍の中には、聖弓イチイバルを手に
張り切るファバルが居た。
同じく弓兵のレスターも自前の勇者の弓を掲げて、真っ先に出撃して行く。
その後にティニー、アーサーの魔道士部隊が続く。

そして戦場でファバルは、弓で勢い良く竜騎士を屠り
その隣では魔道書を手にファバルを助けるティニーの姿があったと言う。

End

聖戦の系譜二次創作小説 ・「さよならの後に」Part2.

与えられた部屋に戻り普段着に着替えると、途端に部屋の
寒さが身に染みた。
肌に突き刺さるような冷えた空気は、幼少期からシレジアで
住んでいたが故にもう慣れた物だと思っていたが
別の意味で堪えるようだ……どうやら心が寒いらしい。
それでも、フュリーはクロードの言葉を反芻し、

一生懸命どう答えようかと
考え込んで居た。
ベッドに一人腰かけて、考えるのはクロード神父の人柄の事。
神父様は、常に実直で軽々しく付き合ってほしいと言う人では
無い――と思った。
仲間の中には、挨拶代わりにそんな事を言う人が居るけれど、
クロードはおそらく本気の本気なのだ。
と言う結論に達すると途端にフュリーは耳まで真っ赤になる。
どうしよう、今までそんな事を男性から言われた事もなく――

 

何時の間にか、レヴィン王子への気持ちの整理が付いて、今度は
クロードにどう答えるか、とそればかり考え込んで居る自分に気が付く
フュリーである。


フュリーだって分かっている、レヴィンへの想いはクロードの言う通り
不義なのだ、と。
でもクロード神父は独身だからもし付き合うとすれば
何の問題も無く行くだろう。

 

とその時トントンと軽くドアを叩く音が外から聞こえる。

「フュリー、居ますか?」

それはエーディンの声だ。

「は、はい。居ます。どうぞ」

立ち上がってドアを開けると、そこには
湯気の立つ紅茶と、スコーンを銀色のトレイに置いてそれをしっかり
持っているエーディンの姿だ。

「皆さん、向こうでパーティーの最中です。
でもフュリーの姿が見えないので体調でも優れないのでしょうか、と思って
心配して居ました。これは、差し入れです」

エーディンから、トレイを受け取りそれを部屋のテーブルの上に置く。
紅茶の香ばしい匂いが、暖かく部屋に広がり、フュリーはエーディンの気配りに
感謝するように微笑んだ。

「ありがとう、エーディン様。あの、後で良いので少し相談を
しても良いですか?話したい気分なのです」

「ええ、勿論です。会食が終わったら直ぐに
こちらのお部屋に来ますね?」

「お願いします」


本当は、式の後の会食にも参加すべきだが――とは思う物の
結局は顔を出さず仕舞いになってしまった。
トレイに置かれた紅茶を持ち上げ一口口にし、ほっと息を吐く。
美味しい――、エーディンが入れてくれる紅茶は
何時も美味しいのだ。
程よく温かいそれを時間をかけてゆっくりと飲む。

スコーンの方も、祝いの席用にシレジアの厨房を預かる者が
力を入れて作って居たと聞く。
紅茶を飲んだ後にスコーンを食べると、
口の中で優しい味が広がった。

それから、更に二時間が経ち、パーティーもお開きの頃合い。
エーディンが、修道女の服に着替えてこちらの
部屋へと来てくれた。

「エーディン様。わざわざありがとう、相談と言うのは――」
「はい」

フュリーは、言葉を選びながらレヴィン王子への想いと
クロード神父との会話の一部をエーディンに話すのである。

「そうですか、クロード様が……」

エーディンは椅子に深く腰掛け首を緩く傾げると

「フュリーの今の気持ちはどうなのです?」

「えっと、今は――。嬉しいのですがとても複雑な気持ちですね」

「それなら思い切ってクロード様にその気持ちを告げてみては?
嬉しいと言われれば悪い気がしないでしょうし――それに」

「それに、何でしょうか?」

「振られた恋を払しょくするには、新しい恋愛をする事です。
フュリーは私から見ても、申し分の無い素敵な女性ですから
クロード様との恋愛に生きても良いと思います」

「そ、そうですか。そんな事はありませんが――新しい恋愛。
そうですよね。分かりました。正直
どう返事をしたものか迷っていましたが……吹っ切れました。
エーディン様。ありがとう御座います」

エーディンは、ぱっと表情を明るくし大輪の花のように笑った。
フュリーも笑顔を浮かべて心の中で呟き。
私は、――エーディン様のように上品で知的で人の情を知る訳でも無い。
そしてシルヴィアのように明るく、人々を和ませる踊りで心を癒せる訳でも無い。
それでも――クロード神父は私を見てくれて居た。
だから、付き合ってみるだけなら良いですよね?と。

次の日、フュリーは礼拝堂に居たクロードに自分の心の内
を告げる。

「では、今日から私と貴女は友人以上、恋人未満――と言う事ですか」

「はい、いきなり恋人同士と言うのも気恥ずかしいので……
それでお願いします」

「ははは、友人同士ですら無かった私達が今の関係になったなら
そこには希望がありますよ」

「希望、ですか?」

「仲が進展して何時かは結婚も視野に――という事です」

「えっ」

フュリーは、吃驚して口を半開きにして驚いて居た。

「け、結婚はまだ考えて居ませんけれど――とりあえず。
今日はシレジア城の中庭に一緒に行きませんか?クロード様にお見せしたい物が
あるんです」

「おや、何でしょう?」
「こちらへ」

二人は連れ立って中庭に移動する。
そこには、寒さに負けず咲くクリスマスローズが、沢山植えられて居た。
丁度中庭の上には屋根が作られており、ここまで雪が吹き込む事は無い。

「奇麗で、たくましい花ですね」

クロード神父は、そう感想を告げる。そして隣に居るフュリーを
見ながら

「私にとっては、花よりフュリーさんの方が何倍も美しく見えていますが」

「えっ、嬉しいですがそれは、褒めすぎでは無いですか?」

「褒めているつもりは無くありのままを言ったまでですよ。
でも花の素晴らしさ、生命力にも一目置いているのです」

「そ、そうですか。はい、この花はクリスマスローズと呼ばれここに
植えられているのは特に耐寒性が優れるように交配された品種なんです」

フュリーが白とピンクの混じった花々をそっと指さす。

「クロード様のおっしゃる通り生命力溢れる
この花の強さを、見て貰いたかったんです」

「生命力、と言えば人間にもエーギルと言う生命エネルギーがありましてね。
この話は以前にしましたか?」

「ティルテュ様が確かクロード様から説明を受けた、と言っていましたね」

「シグルド様の軍の皆さんはエーギルの強さが桁違いに強いのです。
だから寒さの中の行軍でも、まるで勝手を知った渡り鳥のように迅速でしたね」

「ふふふ、雪国育ちのレヴィン様も驚いて居ましたね……あっ」

「どうかしましたか?」

「ごめんなさい、レヴィン様の事は過去の事。あまり言わない方が良いですよね?」

フュリーはすまなさそうにクロードに告げる。

「いや、名前を出すぐらいなら問題は無いのではありませんかね。
これからはレヴィン王子とは今まで通り主君と騎士と言う関係で良いと思いますよ。
それより今日ここにデートに誘ってくれた事、嬉しく思います。
フュリーさんから招いてくれて私は幸せ者ですよ」

「デート?確かにデートですね。ふふふ」

「はい、そうです。こうやって少しずつ、心を繋いで行くのですよ」

「心を繋ぐ、なるほど素敵な響きですね。クロード様は、
デートには慣れていらっしゃるのですか?」

「そうでも無いですね。ハハハ。貴女と

居るのは楽しいですがね」

和やかな会話を交わし寄り添うように花壇を散策する二人。
その様子を偶然、厨房から出て来たエーディンが遠くから見て居た。

(ふふ、上手く行っているみたいですね。応援していますよ)

密かに声援を送る。

それから一時間程、フュリーとクロードは楽しく語らい、花を満喫し
その光景は既に睦まじいカップルのように見えたかも知れず。


-END-

 

聖戦の系譜二次創作小説・「さよならの後に」Part1.

ファイアーエムブレム聖戦の系譜/SS
『さよならの後に』Part1.

 

シレジアの冬は長く、寒さが厳しい。
そして春は、はるか遠い。
雪が鬱蒼と降り積もる中でも、
一つのある明るい話題があった。


シグルド軍に所属する一組のカップルが
華やかな結婚式をシレジア城の中で
行ったのである。
シレジア王国の王子であるレヴィン。
そして新婦の踊り子シルヴィア。
明るい雰囲気の中で二人はきちんとした正装に身を包み、
仲間から祝福されて腕を組みながら赤い絨毯の上を歩いて行く。
外の寒さにも負けない温かい笑顔と、鳴りやまぬ拍手の中――
二人は誓いのキスを交わす。
その前方では祭壇に立ったクロード神父が、厳かに杖を掲げて
聖なる祈りをもって二人を祝って居た。


誰もが、幸せな顔をして取り囲んでいるかと
思いきや、一人内心に複雑な心境を
抱え少し浮かない表情を浮かべて佇んで居る女性が一人。
シレジア王家に仕える天馬騎士の一人、フュリーである。
フュリーは長い間、レヴィンを慕って居たのだ。
片思いかもしれなかったが、想い続けて諦めなかった。
なのに――。レヴィンは自分の手の届かぬ所に行ってしまった。
悲しいけれど、苦しいけれどこれは紛れも無い現実だ。


皆にばれぬように軽くため息を付くと、
水色のパーティードレスに身を包んだフュリーは
そっと一人、会場となった広間を
抜けて城のバルコニーへと歩いて行く。
止む事無く降って来るミゾレ状の雪が、首元へと
滑り落ちてきてその冷たさに
ぶるりと一つ震えた。

 

(シルヴィアの立つ位置に、――もし。私が立てて居たら)

 

この世にもしも、なんて無い。
だから私もレヴィン様とシルヴィアを心から祝福しなくてはいけない。
そんな事を考えていると、背後から誰かの気配がした。
ゆるり、と首をそちらに向け緑の瞳をこらすと

そこには長身の神父、クロードが。
少し眉を寄せて困った風な顔をしながら、

「フュリーさん。そんな所に居ると風邪を引きますよ?」

「お気遣い、ありがとう御座います。直ぐ戻りますので……」

「はい。暖かい部屋へと戻ってください。
それと何か悩み事がありそうな顔ですが、私で良ければお聞きしますが」

 

フュリーは、性格が真面目故に直ぐに顔に心の内が出てしまうのだ。
隠していたつもりでもどうやらクロードには、分かっていたようで。

 

「ありがとう御座います。

それでは懺悔と言う形でクロード様にだけ言いたいと思います。
移動しましょう」

 

フュリーとクロードが、祭壇のある部屋へと戻るとそこでは
既に式は終わり別室へと皆パーティーの食事を
食べに行ったようだ。

しん、と張りつめた厳かな空気、暖炉の薪の燃え残りが煙を上げている。

フュリーは少し逡巡すると、クロードに

 

「実は――レヴィン様の事で」

「はい」

「懺悔させてください。私はまだレヴィン様への
想いを心の中に隠しています」

「そう、でしたか――。貴女はずっとレヴィン王子を

支え密かに想い焦がれていた。
それで合っていますか?」

 

クロードが告げるとフュリーは、恥ずかしそうに

僅かに首を振り頷く。

「そしてレヴィン王子とシルヴィアさんが夫婦に

なった後もその想いを捨てきれず
それが罪だと分かっていても――レヴィン王子を

愛しているのですね?」

「は、はい……そうだ、と思います」

 

フュリーは、もやもやとやり切れぬ想いを抱えて

そしてそれを吹っ切れずに居た。
それでも、こうしてクロード神父に話す事で少し気が楽になったのか、
先程までの表情は幾分か和らいで居る。

 

「それでは私から提案なのですが――レヴィン王子への

愛を一度横に置いて
私と、一度付き合ってみませんか?」

「えっ……!?」

大きく目を見開きかなり驚いてフュリーはクロードを見上げた。

「付き合うってどう言う意味ですか……?まさか?」

「唐突に告げてしまってすみませんが、これが
一番良い解決策のような気がしまして。
正直に言います。私は以前からフュリーさんの誠実で

飾らない真っすぐな性格を好ましく
思っていたのです。どんな難局でも負けず、

仲間や主君を守る為に空を駆ける――そんな
貴女の姿を何時の間にか目で追うようになって居ました」

「クロード様、そんな――からかわないでください」

「私は冗談は言いません。もう一度言います。フュリーさんさえ良ければ
私と付き合ってくれませんか?」

「私が、まだレヴィン様への気持ちを断ち切れずに居るのを知ってその言葉ですか?
少し考えさせてください……」

「はい、待ってますよ。フュリーさん」

 

Part2へ続く

ファイアーエムブレムif  二次創作小説・暗夜王国編2 Part2

ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編2 Part2

『第12章・楽園の歌声Another』Part2

 

『闇へとー、進みゆくー♪』

ひらひらと腕をしなやかに舞わせながらはっきりとした良く通る声で
歌って行く。

『虚ろな白亜の王座、己を、全てを欺いてー♪』

そしてアクアの指先から透明の水のような物がしたたりそれは
徐々に水量を多くし激しく舞う手の先から流れ宙に弧を描いて行く。

『紡ぐ理(ことわり)、黒曜鈍く崩れ落ちて、光去り行く黄昏ー♪独り、思う♪』

最初にその異変に気が付いたのは、王の斜め後ろに控えて居た軍師のマクベスだ。

「ぐ、ぐぬぬぬぅ。……ぐっ……」

低い声で唸り苦しむような素振りを見せるガロン王の背中に軽く手を置き
そして

「ど、どうなさいましたか?ガロン王様!」

舞台のアクアから発せられた水は舞台を中心に放射状になって舞い、
ガロン達の居る船までにもそれは届いて居たのである。
だが、その水の軌跡を肉眼で見る事が出来るのはアクアのみ。

「ぐ、ぐぐぐぐっ……!」

ガロン王は、元々土気色をした顔色をドス黒くさせては
苦しんで居たが、
その間にアクアの出番は終わり、素早く姿は表舞台から消えて居た。

「ひぃぃぃっ、部下の皆さん。ガロン王様を安全な所へ。
王が苦しんだのは明らかに歌姫の仕業です。
呪いか何かかもしれません、ただちに舞台裏を捜索し
歌姫共を全員捕まえてやりなさい!」

ガロン王を助け起こしながらもマクベスは兵士に
そう命令して行く。

観客席では、カムイも義弟のレオンと一緒に見て居た。
が、何故か二人とも舞台の歌姫がアクアと気が付く事は無かった。
否、誰もその歌姫の正体は分からず忽然と舞台裏からもその姿が
消えて居たのである……。

「何か、お父様に異変があったのでしょうか?」

隣に座るレオン王子に告げると、レオンは事情を聴いて来ると
言い残し小舟から小舟へひょいっと飛んでガロン王の
近くまで行ってしまった。
その後、入れ替わりに白い何時もの衣装に着替えたアクアが
何食わぬ顔でカムイの方へと近づいて来る。

「あれ、アクアさん。姿が見えなかったですが
今までどちらに?」
「ええ、気分が優れなくてここの医務室で休ませて貰って居たの。
もう大丈夫よ」

そして、アクアはちらっとガロン王の居るであろう小船の方角をさりげなく確認して居た。
呪いは解けなかった……、それは残念だけど。
ガロン王の生前の心を呼び戻すのは結果的に失敗はしたが
どのタイミングでそれをカムイに言うか……勿論今この場では
言えないし、言えば自分は泡となって消えてしまうのだが。

王族に異変が起きた、と言う事でショーは急遽中止となり
劇場内では軍属の兵士達が縦横無尽に闊歩し一転して物々しい雰囲気となった。

マクベスが、歌姫を縛り上げて口を割らせると言って居るみたいだ。
カムイ姉さん、どうする?」
「心配です……。今からお父様の所に行きたいけれど、それを許して下さるでしょうか?」

レオンとカムイがそう話し合って居ると、突然向こう側の小舟の中から
派手な装束と顔を半分覆う鬼を模したお面を付けた巨躯の老人が出て来る。
身なりから察するに白夜王国出身の者だと見て間違い無い。

「へへ、何やら相当慌てて居るようだな?暗夜の者共よ!」

にやり、と不敵な笑みを見せる男はさっと手を振ると周囲の小船の中から
わらわらと白夜兵が出て来る!

「そこをどけ、この戦争を終わらせる為に我ら白夜がガロン王を始末する」

「そんな事、本当に出来ると思って居るのか?」

巨躯の老人に対してレオンが牽制するようにそう言った。
顔付きは双方とも厳しく、レオンに至っては既に懐から分厚い魔道書を
取り出して構えて居た。

白夜王国の兵よ、お前達が歌姫を雇って父上を呪わせようとしてたんだな!?」

「何、歌姫だと?呪い?何の事だッ!」

問いただすと、老人は一瞬不思議そうな顔をするも次の瞬間元の傲岸不遜な
態度に戻り

「言いがかりを付けて我らを悪者に仕立てようとする等、流石暗夜の者は
やり口が汚いな!良かろう、お前達から先に始末してその後じっくりと
ガロン王を屠るのみ!いざ、クマゲラ参るッ」

クマゲラは、ぶんぶんと自分の体の三分の二程もある長い金棒を振り回して
船から船へと飛び移り渡って来る。

「ここは中立地帯の筈なのに何故、こんな……」

言いかけるカムイの前で彼女を守るようにしながらレオンは
魔道書を開き魔法を紡ぎ始める。

その後ろでアクアが、槍を構え援護しようとして居た。

と、突然全く違う方向から何やら喧噪が聞こえて来る。

「わわっ、こいつ!?」

兵士が槍で必死に突こうとして来るのを潜り抜け一人の獣の耳と
尻尾を持った男がぴょんぴょんと小舟から小舟に渡り

一目散に逃げ惑って居る。

だん!と小舟の上で足を踏ん張り一旦止まるとクマゲラ
何事かッ!と背後の部下に大声で聞く。

「それが、この劇場に所属不明の不審な獣人が紛れ込んで居まして
捕まえようとして居るのですがなかなか素早く……」

そして次の瞬間、レオンの魔法が完成し……どん!とそれにぶち当たり
クマゲラが吹き飛ばされる。

「おわあっ!?」

衝撃で小船二つ分ぐら吹っ飛ばされ危うく水の中に叩き落されたかに
思えたクマゲラだったが持っている金棒をつっかえ棒代わりにして
何とか態勢を整え忌々しそうに片方の目の部分だけ開いたお面の隙間から
ぎろり、とレオンを睨み付けた。

直ぐ後に、二発、三発と魔法がぶち込まれ白夜兵側に動揺が走る。

 

「何ぼうっとしているんだよ?姉さん。今の内に
獣人を助けに行って来なよ」

「は、はい……!」

「待って、カムイ。私も行くわ」

 

カムイと陣を組んで、アクアは救助に向かう。
しかしその心は、重かった。
今頃、舞台裏では罪の無い歌姫達が暗夜兵に脅されながら捕まって居る事だろう。
酷い目に遭って無いだろうか?
マコナは無事だろうか、私のせいで……ごめんなさい。
それでも、前に進むしかない。
今は、ただ前へ。

 

その後、劇場内に迷い込んできた獣人フランネル
無事助けた一行は白夜王国兵の襲撃を制し
その場を収める事に成功する。

小船や、舞台の上には火魔法による焦げ跡や
槍や剣で突いたような穴が沢山出来てしまった。
これらは後日きちんと修復され、変わらずオペラ劇場は
そこにあるのだ。

 

~終わり~

ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編2 Part1

ファイアーエムブレムif 二次創作小説・暗夜王国編2

 『第12章・楽園の歌声Another』Part1

 

ミューズ公国。漸く養父のガロン王からの
命令をこなし、カムイ王女達はこの国まで
辿り着いた。
白く高い建物がきちんと並び、所々に用水路が設けられ
整然と並ぶ美しい街並み。
本日ガロン王は、暗夜王国の少数精鋭の部下を連れて
この国まで来るそうだ。
ガロン王は、非常に歌劇ショーが好きでこれまでに何度か
ここに足を運んでいる。白夜王国暗夜王国は戦いの最中と言え
ミューズ公国のアミュージアと言う地域は、中立地帯なので身の危険は極めて少ない
と言う事である。

アミュージア市の中央には、オペラ劇場にしてカリオペと呼ばれる豪華絢爛で
白を基調とした非常に大きな建物がある。
ここでは、名だたる歌姫やオペラ役者が招かれ人々の前で
歌い、踊り天上の祭り、と比喩される程の美と芸術の娯楽を
鑑賞する人々に提供するのだ。

ガロン王が来る時は、必ず大きなショーが開かれ
選りすぐりの歌姫が出演する。
この日、やはりショーのプログラムがありガロン王の為に
しつらえられている特上の席の飾りつけが行われて居た。

一方その頃、劇場の舞台裏では王女アクアが
何やら行動をして居た。
今回の出演者、歌姫達の部屋にこっそり忍び込み
さも自分もショーに出る一員である、と言う顔をして
紛れ込んで居た。
ただ、プログラムと出演者はあらかじめ決まって居るので
自分が飛び入りで参加するのは厳しいかも知れなかった。
アクアが、ここに居る理由……それは義父のガロン王の身を縛る呪い的な
物を解く為だ。ガロン王が既に死んでいて、その体と精神は
何者かに操られている……と言う事を知っているのは今の所アクア一人である。
アクアは、ぎゅっと胸元のペンダントを握り締め何とか舞台に上がる
方法を考えて居た。

「あら、見ない顔ね?」

目のラインを強調するけばけばしい化粧をして美しい薄絹を纏った歌姫の一人が
側に近づいて来た。

「えぇと……私は補欠の歌手で、いざと言う時の皆さんの代わりなの。
でも、私はこの劇場で一度ソロで歌ってみたいわ。
だからどなたか私と出番を変わってくれませんか?」

それを聞いて数人居た歌姫は揃ってくすくすと笑った。

「そうやってガロン王に取り入るつもりなんでしょう?
何しろ私達にとって王族や貴族のパトロンが付いて援助金を貰えるのは
至極名誉な事ですからね。
補欠なら補欠らしく、おとなしくしておいで。さも無いと……」

その部屋へ劇場を取り仕切る支配人が入って来る。

「何事かね?」
「支配人さん?この子がソロで舞台に出て見たいと
生意気な口を……」

告げ口するように伝えれば支配人の男はぎょろりと大きな目を
アクアに向けた。
口元と鼻筋を覆う黒のヴェールで半分顔を隠し、腰回りに大きくスリットの入った黒の
歌姫の衣装を着たアクアの謎めいた美しさを目の当たりにして
支配人はうーん、と唸る。

「駄目でしょうか?」

アクアは、今度は支配人の方へ眼を向け縋るように聞いて見た。

「まずは実力を知らないとねぇ、君ここで少し歌って見なさい」
「はい」

アクアは胸の前に右腕を置き、目を瞑り歌を歌い始めた。

旋律だけのそれは、何処か悲し気で聞く者の心を揺さぶるようだ。
その場に居る者の心を打ち、誰もが魅了されてしまう
程の代物だ。悲しくも透き通った歌声。
実力は十分、否この場に居るどの歌姫よりも遙かに芸術性のある
その歌に支配人は軽くぱちぱちと拍手を送り、そして告げる。

「マコナ、君が補欠に回りこの子をソロで舞台にあげてやれ」
「こんな名前も素性も分からない子に!?」
「芸術の世界は実力が全てだ、君も今聞いただろう?素晴らしかったじゃないか」

マコナと呼ばれた歌姫はしぶしぶ言う通りにするしかなかった。

「ありがとう御座います。マコナさん、すみません……」

アクアがマコナの方を向き申し訳なさそうにすると
彼女は

「貴女の歌声は素晴らしいと認めるけれどせいぜい舞台の上で緊張のあまり
失敗しないように!ふふっ」

と先輩風を吹かすのであった。

そして一時間が経ち、ショーが始まる時間となった。
アクアの出番はプログラムのニ番目だ。
一番目の歌は前座でありすぐに終わるのでもう舞台裏でスタンバイをして居る。
そして、出番が来て裏から表へと優雅に歩いて行く。

白い柱と白い大理石の床、そこには目の覚めるような真紅の絨毯が広げられて居る。
上から魔法によるスポットライトが照射し、前方を見ると
観客席に該当する場所は、人工の川になっておりそこに観客が
乗る為の小舟が幾つも幾つも浮かべられて居る。
観客席側の明かりは、船の先に付けられた小さなカンテラのそれのみ、
川の揺らぎに心地良く揺られながらショーを楽しむと言う趣向となって居た。

舞台の真ん中でアクアは、ペンダントに己の力を籠めるように手を添えて
観客席の方に僅かに視線を送った。
居る。遥か遠くでは警護の部下を数人従えたガロン王が小舟の上でこちらを見て居た。

やがてドラムをメインとした暗夜調の曲が流れ始める。

それに合わせてアクアが踊り、舞う。

 

Part2へ続く